フードテックとは?食品業界が注目する背景や市場規模・導入事例を紹介

「フードテック」は造語のため、言葉を耳にしたことはあっても定義がわからない方もいるかもしれません。フードテックは農林水産省の見込みでも今後急激な市場拡大が予想され、官民協力して推進が行われている領域です。

本記事では、フードテックの定義や注目される背景、日本を含めた世界の動向や市場規模を紹介します。フードテックの推進によって得られる恩恵や具体的な導入事例も紹介するのでぜひ参考にしてください。



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フードテックとは「食分野の課題を解決するための最先端の技術のこと」

フードテックとは「Food(フード)」と「Technology(テクノロジー)」を組み合わせた造語で、食分野の課題を解決する最先端の技術のことです。また、農林水産省では「生産から加工、流通、消費などへとつながる食分野の新しい技術およびその技術を活用したビジネスモデルのこと」と定義されています。

令和2年(2020年)10月には、食品企業やベンチャー企業、研究機関、関係省庁などに所属する方が参加し「フードテック官民協議会」が設立されました。フードテック官民協議会では、行政と民間が連携して、食領域の課題解決と新市場の開拓に向けた具体的な議論や活動が行われています。


フードテックが注目される背景

世界的な人口増加による食糧需要の増加や、SDGs(持続可能な開発目標)への関心が高まるなか、食品産業に対しても環境負荷の低減など様々な社会問題の解決が求められています。その解決の手段として世界的に期待が高まっている分野が、フードテックです。

健康志向・アレルギー対応などの多様な食需要への対応や、食料供給・環境保護などの社会問題を解決するため、フードテックを活用した新たなビジネスの創出にも関心が高まっています。


フードテックに対する世界中の動向

フードテックは日本だけではなく、世界的にも注目されています。世界各国と日本の動向と現状を詳しくみていきましょう。


世界各国の動向と現状

海外では、フードテック分野の投資額は大幅に増えています。農林水産省の発表では、投資額の推移は以下のとおりです。

※出典:農林水産省「フードテックに関する動向 説明資料」のデータをもとにグラフを作成

2021年にはコロナ禍の影響でフードデリバリーやデジタルサービスへの投資が増加しています。一方、2022年にはウクライナ侵攻の影響により、スタートアップ投資の市場が悪化したことで、2021年に比べて投資額が減少傾向にあります。

上表より、年によって増減はあるものの、2012年から2022年の10年間で投資額が10倍まで増加していることがわかります。

海外では、細胞食品(培養肉)などのフードテックを活用した食品の発売も行われています。他にも、各国では以下のフードテックが社会実装されています。


日本の動向と現状

日本の投資額は、2021年時点でアメリカの約2%程度です。2020年時点で上位10位にも入っておらず、他国に比べて遅れをとっています。投資額が他国に比べて少ないことから、スタートアップや研究者の海外流出が危惧されている状況です。

危機的状況を踏まえ、2020年4月に100以上の企業などが参加する「農林水産省フードテック研究会」が立ち上げられ、主に多様なタンパク質供給の在り方について意見交換などが行われました。

同年10月にはフードテック全般を対象に事業化を推進する「フードテック民間協議会」を設立しています。令和6年4月時点では食品企業、ベンチャー企業、研究機関、関係省庁など約690の団体・企業が参加し、協調領域の課題解決と新市場の開拓に向けた、具体的な議論や活動が行われています。

フードテック民間協議会が目指す姿に掲げている具体的なビジョンは、以下のとおりです。

2023年には以下の各テーマに分けて「プレーヤーの育成」と「マーケットの創出」に向けたロードマップを策定し、フードテックの事業化を推進しています。

  • 植物由来の代替タンパク質源
  • 昆虫食・昆虫飼料
  • スマート育種のうちゲノム編集
  • 細胞性食品
  • 食品産業の自動化
  • 省力化
  • 情報技術による人の健康実現

また、政府の輸出額目標である2025年に2兆円、2030年に5兆円を達成するため、フードテック関連にも予算を立てて支援が行われている状況です。

支援先には「フードテック実証」や「スタートアップ支援」「研究開発支援」「市場形成支援」「その他分野ごとの支援」などの分野が挙げられ、それぞれ該当する事業に予算が充てられています。


フードテックの将来性と予測される市場規模

農林水産省の試算では、フードテックの市場規模は24兆円(2020年)から、2050年には279兆円までに急拡大すると見込まれています。なお、将来的な市場規模は、以下の3プロセスにより推計されたものです。

  1. マーケットレポート、統計資料などを基に足元(2020年あたり)の市場規模を整理
  2. 当該市場の成長率は人口や消費量・生産量の成長率などを統計資料より求めて使用
  3. 成長の見通しに対してアンケートで把握したフードテックの消費者受容性を用いて、当該市場全体でフードテックが代替し得る市場規模を算出

上記の手順で推計されたフードテック各分野の見込みは以下のとおりです。

一方、海外ではスタートアップ企業や大企業が積極的にフードテック市場へ参入し、投資額も年々増加しています。世界の主要なフードテックスタートアップの時価総額は、日本の食品製造のトップ企業に迫る勢いです。遅れをとらないため、日本でも今後も新たな企業の参入や投資額の増加が予想されます。



フードテックの推進で解決が期待される社会問題

フードテックの推進により解決が期待される問題は、以下のとおりです。

  • 人口増加による食料不足・飢餓
  • フードロス(食品ロス)の削減
  • 業務の最適化・人手不足の改善
  • 食の安全性向上
  • 多様な食習慣ニーズへの対応

それぞれ簡潔に紹介します。


人口増加による食料不足・飢餓

現在、栄養不足に陥っている人口は8億1,500万人で、2050年には20億人まで増加すると見込まれています。国際連合広報センターの資料では、具体的な状況や数字が掲載されており、内容を抜粋して紹介すると以下のとおりです。

世界で飢えに苦しむ方がいる一方、食料生産量の3分の1が廃棄されています。日本では年間523万トンのフードロスが発生していますが、自給率(カロリーベース)は38%と、多くを輸入に頼っています

飢えに苦しんでいる方がいる反面、大量の食品が廃棄されている状況や、輸入に頼っている日本で多くのフードロスフードロスが発生している状況は、食料資源が有効活用されていないことを示しています。

食の不均衡は、フードテックによる新たな生産方法や保存方法の開発により、世界規模での解決が期待されている問題のひとつです。


フードロス(食品ロス)の削減

フードロスとは、まだ食べられる食品の廃棄を意味し、食品ロスとも呼ばれます。前述のとおり、世界では毎年生産量の推計3分の1(約13億トン)のフードロスが発生しています。日本のフードロスは2021年度時点で約523万トンです。

フードロスの発生により処理過程で発生するCO2(二酸化炭素)は地球温暖化の原因となる他、埋め立て処理場の近くは地下水汚染・水域汚染のリスクも高まります。ゴミ処理費用の一部は国民の税金で賄われるため、フードロスが増加すれば必要な税金も増えるなど、フードロスに起因して発生する問題は様々です。

日本では、2030年までに食品廃棄物(一人あたり)の量を半減させるとの目標を掲げ、政府主導で対策が進められています。フードテックでは、AIをはじめとする最新技術により、規格外品などの廃棄削減、需要予測システムによる売れ残り・作りすぎの削減などが可能です。そのため、フードロスの削減にも貢献するとして期待されています。

フードロス(食品ロス)については以下の記事でも詳しく紹介しているため、ぜひあわせてご覧ください。

▶関連記事:フードロス(食品ロス)の問題点とは?日本の現状や企業が取り組める対策を紹介

▶関連記事:食品ロス(フ―ドロス)の現状は世界と日本でどう違う?原因や削減への取り組みを紹介


業務の最適化・人手不足の改善

フードテックは業務の最適化や人手不足の改善にも貢献するとして期待されています。

厚生労働省が公表しているデータによると、外食産業は離職率が高く人手不足が経営を圧迫すると問題視されている業種です。フードテックによって調理や盛り付け、洗浄まで行うAIロボットが導入されれば、人手不足の改善につながります。AIによる販売予測は在庫の最適化や発注業務の削減に役立つでしょう。

人手不足については以下の記事でも詳しく紹介しているため、ぜひあわせてご覧ください。

▶関連記事:食品業界が抱える人手不足の原因とは?日本の現状と企業が取り組める対策を解説


食の安全性向上

フードテックは食の安全にも貢献する技術です。健康被害の発生を防止するために食の安全性向上が求められており、平成2018年には15年ぶりに食品衛生法が改正されました。

食中毒への対策強化や安全な食品用器具・容器包装の使用や、国際的にも認められている衛生基準「HACCP(ハサップ)」に基づいた衛生管理などが盛り込まれています。令和3年からはHACCPに沿った衛生管理が義務化されました。

食の安全性向上が求められるなか、フードテックの活用によって安全に長期保存できる梱包材や精度の高い異物混入検知システムなどが開発されています。他にも、柔らかい食材を積み重ね、高齢者でも安全に食べられる「3Dフードプリンター」など、様々な製品が登場し、実用化が進められています。

HACCP(ハサップ)については以下の記事でも詳しく紹介しているため、ぜひあわせてご覧ください。

▶関連記事:HACCP(ハサップ)とは?概要や対象事業者、メリットと注意点をわかりやすく紹介


多様な食習慣ニーズへの対応

食料需要は2050年に2010年比で1.7倍になると予測されており、なかでも畜産物は1.8倍、穀物は1.7倍と高い増加率が見込まれています。需要だけでなく、健康志向や菜食主義など食に対するニーズも多種多様です。

フードテックでは、大豆を活用して風味や食感が肉に近い「植物肉」の開発が進んでおり、世界で増大するタンパク質需要に対応できる他、多様化するニーズにも対応できると期待されています。



フードテックの主な分野と導入事例

フードテックが活用されている主な分野は以下のとおりです。

  • フードロス削減、アップサイクル
  • スマート食品産業
  • 植物由来の代替タンパク質
  • 昆虫食・昆虫飼料
  • ゲノム編集食品
  • 細胞性食品
  • アグリテック、スマート水産業
  • 消費分野など(鮮度維持、宅配・ドローンなど)
  • ヘルスフードテック(AI食・管理アプリ、アレルギー情報、減塩、介護食など)
  • など

分野ごとに導入されているフードテックも様々です。導入されているフードテックの具体的な事例として、AI技術が導入されている事例とフードロス削減やアップサイクルで導入されている事例を紹介します。


AI技術が導入されている事例

飲食業界では、人の隣に並んで盛り付けができる人型協働ロボットや、皿の種類や汚れ具合を判別して洗浄してくれるAIロボットが導入されています。作業に応じて位置の変更が必要なAIロボットにはキャスターがついている他、充電式が採用されているなどの工夫もなされています。

特定の作業をAIロボットに任せることで人手不足の解消や作業効率の改善、人件費の削減につながるでしょう。

発注業務もAIロボットが導入されている事例のひとつです。AIの機械学習を有効活用し、人には難しい需要予測に基づく発注業務を行います。AIに任せることで在庫の最適化や業務の削減が期待できます。


フードロス削減やアップサイクルで導入されている事例

フードロス削減やアップサイクルにもフードテックが導入されています。大手パンブランドや地ビールメーカーと連携している企業では、端材パンからビールを製造しています。余剰で廃棄されていた食材に新しい価値をつけて販売している事例のひとつです。

また、家庭で気軽に使えるフードロス削減アプリを提供している企業もあり、スマートオーブンやスマート冷蔵庫がその例です。

スマートオーブンはインターネットに接続され、アプリと連携することでレシピを自動的に調整したり、調理の進行状況をスマホで確認できたりします。

スマート冷蔵庫は、食品の在庫管理や賞味期限の通知、レシピ提案などの機能を持つ冷蔵庫です。

冷蔵庫にある食材を登録しておけば、食材から作れるレシピをAIが提案します。

使えば使うほど学習し、好みにあったレシピを提案してくれます。スマートフォンを使って家庭で活用できる身近なフードテックです。



フードテックに関する製品の比較検討・情報収集なら「フードテックジャパン」へ

フードテックに興味がある方は、関連製品の比較検討、最新技術の情報収集が可能な「フードテックジャパン」にぜひご来場ください。

フードテックジャパンとは、食品製造に関する最新設備やソリューションが一堂に出展する展示会です。IoT・AIソリューション、ロボット・FA機器、製造・検査装置などをはじめとする、フードテックに関連する製品が出展します。

さらに、今年は「食の資源循環フェア」を新設し、食品ロス削減をテーマに、食品残渣リサイクルやアップサイクルといった新技術の展示だけでなく、有力企業によるセミナーも併催されます。

会場では、食品業界における食品ロス対策、工場の自動化・省人化・DXなど、フードテックに関する最新の情報収集が可能ですので、最新のフードテック関連技術の展示をご覧になりたい方は、ぜひ展示会への参加をおすすめします。展示会へは、事前登録をすれば無料で入場可能です。

また、関連サービスや製品を扱う企業様の場合は、出展側として参加することも可能です。自社製品アピールの場や他社とつながる場としてもご活用いただけます。具体的な商談の実現・リード案件獲得につながる可能性があるので、ぜひ出展もご検討ください。

出展スペースには限りがあるため、早めの申し込みがおすすめです。

■ 第6回 フードテック ジャパン 東京
2025年12月3日(水)~5日(金)

■第4回 フードテックジャパン大阪
2025年2月25日(火)~27日(木)

■食の資源循環フェア
 東京展:2025年12月3日(水)~5日(金)
 大阪展:2025年2月25日(火)〜27日(木)
詳細はこちら



フードテックは市場規模の大幅な拡大が予想される領域

フードテックは「Food(フード)」と「Technology(テクノロジー)」を組み合わせた造語で、食分野に新しい技術およびその技術を活用したビジネスモデルをさします。世界的に市場規模が拡大しており、農林水産省の推計では市場規模は2020年の24兆円から、2050年までに279兆円まで急激に拡大すると見込まれています。

フードテックの領域に関心がある方は食品製造に関する最新設備やソリューションが一堂に出展するフードテックジャパンにご来場ください。来場登録すれば無料で入場可能、出展側として参加し、他社との繋がりの場としてもご活用いただけます。

フードテックジャパン・食の資源循環フェアの詳細は、以下からご確認いただけます。

■食の資源循環フェア
 東京展:2025年12月3日(水)~5日(金)
 大阪展:2025年2月25日(火)〜27日(木)
詳細はこちら



▶監修:宮崎 政喜(みやざき まさき)

エムズファクトリー合同会社 代表 / 料理人兼フードコンサルタント

出身は岐阜県、10代続く農家のせがれとして生まれ、現在東京在住。プロの料理人であり食品加工のスペシャリスト。また中小企業への経営指導、食の専門家講師も務めるフードコンサルタントでもある。飲食店舗・加工施設の開業支援は200店舗以上。料理人としてはイタリアトスカーナ州2星店『ristorante DA CAINO』出身。昨今、市町村や各機関からの依頼にて道の駅やアンテナショップも数多く手掛ける。今まで開発してきた食品は1000品目を越え、商品企画、レシピ開発、製造指導、販路開拓まで支援を日々実施している。



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