食品工場の仕事がきついと言われる理由とは?3K問題の実態や改善策を解説

食品工場での仕事は、かつて3K(汚い・きつい・危険)というイメージで語られることが多く、職場環境に対して抵抗感を持たれるケースが少なくありません。

特に人手不足の背景には、こうした旧来のイメージが影響していると指摘されています。

しかし、実際には衛生管理の徹底や設備の自動化などによって、職場環境は年々改善されてきています。

本記事では、食品工場における3Kの現状についてデータに基づいて整理するとともに、具体的な改善策や、経営面での課題に対する取り組みについて紹介します。人材確保や職場環境の改善を検討されている方は、ぜひ参考にしてください。




食品工場(食品製造業界)を取りまく3K問題の現状

農林水産省の調査によると、製造業界の人手不足の割合は他業種と比較して高い水準にあり、特に食品製造業は製造業全体と比べても2倍以上を記録しています。このことからわかるように、食品業界全体で深刻な人手不足に陥っており、労働力の確保が急務です。

人手不足の大きな要因として、食品工場における3K(汚い・きつい・危険)というネガティブなイメージが定着していることが挙げられます。長年にわたって形成されたこのイメージは、求職者が食品製造業を敬遠する理由となっています。

食品は私たちの生活に欠かせないものであり、その製造を担う食品工場の重要性は非常に高いものです。しかし、3Kのイメージが定着している現状では、従来の採用方法だけでは限界があります。

業界全体で人手不足を解決していくためには、このネガティブなイメージを払拭する取り組みを進めるとともに、労働環境の改善や新たな人材確保のアプローチを模索していく必要があります。



食品工場における「3K」とは

3Kとは、「汚い」「きつい」「危険」の頭文字を組み合わせた言葉です。食品工場における3Kの課題は以下のとおりです。

  • 「汚い」が生む作業負担の増加
  • 「きつい」が引き起こす生産性の低下
  • 「危険」がもたらすケガや事故のリスク

それぞれ詳しく解説します。


「汚い」が生む作業負担の増加

食品工場は、調理や加工に伴う油や原材料の飛散などから「清掃や衛生管理が大変そう」という印象を持たれやすく、世間では「汚い」というイメージにつながっています。そのため、他業種と比較して衛生面で敬遠されやすい傾向です。

しかし、実際にはHACCP(ハサップ)の施行により衛生管理の記録が義務化され、衛生環境の大幅な改善が進められています

一方で、衛生管理の向上は新たな課題も生み出しています。HACCPに基づく管理では、温度管理、清掃記録、原材料のチェックなど、細かな記録作業が日常的に求められるようになり、従来と比べて作業員の業務量が増加している現場も少なくありません。

衛生面での水準は向上しているものの、それに伴う管理業務の増加が作業員の新たな負担になっています。

HACCPについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

▶関連記事:食品工場(食品製造業)の課題とは?解決に効果的な取り組みや改善策を紹介


「きつい」が引き起こす生産性の低下

食品工場では長時間の立ち作業が常態化しており、作業員の身体的な疲労が蓄積しやすい環境です。ライン作業では同じ姿勢を長時間維持することが求められ、腰痛などの健康リスクを抱える作業員も少なくありません。

また、食品製造業は他業種と比較して長時間労働になりやすく、休日も少ない傾向です。

きつい労働条件により、一人あたりの負担は増大し、作業効率も悪化しています。その結果、生産性の低下といった悪循環を生み出しており、食品工場における「きつい」という課題が浮き彫りになっています。


「危険」がもたらすケガや事故のリスク

食品工場における労働災害は深刻な問題となっており、製造業全体の死亡事故の29%を占めているデータが存在します。食品工場で起きた事故例は、以下のとおりです。

作業員が事故により欠員となった場合、その影響は個人だけでなく工場全体におよびます。また、事故により熟練作業員が突然離脱した場合、生産ラインの効率を大きく低下させ、残された作業員への負担増加にもつながるでしょう。

さらに、重大な労働災害が発生し世間に知られた場合、企業のブランドイメージが大きく毀損するリスクもあります。食品工場の「危険」がもたらすケガや事故のリスクは、作業員の安全だけでなく、企業経営にも直結する問題です。

食品工場での安全対策についてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

▶関連記事:食品工場での安全対策は?起こりやすい労働災害や従業員の安全と健康を守る方法を解説



きついと言われる食品工場の仕事内容や特徴

食品工場の仕事内容は大きく分けて以下の4つです。

生産ラインは止めることができないため、常にスピードが求められる環境といえます。特にライン作業では、前後の工程に影響を与えないよう一定のペースを維持することが必要です。



食品工場は本当にきつい?データで見る食品工場の実態

食品工場が「きつい」といわれることが多いなか、他業種と比較した離職率や給与水準のデータを基に、労働環境の実態について解説していきます。

  • 他業種と比べた離職率
  • 他業種と比べた給与水準

以下で、それぞれについて詳しく解説します。


他業種と比べた離職率

令和5年の製造業の離職率は9.7%となっており、これは全産業平均の15.4%と比較すると低い水準です。食品工場を含む製造業は、一般的なイメージとは異なり、実は離職率が低い業界であることがデータから見てとれます。

産業別に見ても、製造業の離職率は「複合サービス事業」「鉱業、採石業、砂利採取業」に次いで3番目に低く、比較的安定した雇用環境であることがわかります

つまり、食品製造業の人手不足問題は離職率の高さではなく、新規入職者が少ないことが根本的な課題といえるでしょう。人手不足を解消するためには、いかに新たな人材を業界に呼び込むかが重要です。


他業種と比べた給与水準

令和5年の製造業の月平均賃金は306,000円であり、同年の全産業平均月収の318,300円と比較して、大きな差はありません※1※2

「きつい割に給料が安い」というイメージとは異なり、実際には日本の平均的な給与水準を維持している業界といえるでしょう。

しかし、食品製造業には構造的な課題もあります。

  • 営業利益率の低さ(価格競争や原材料コスト増などによる利益の圧縮)
  • 人時生産性の低さ(単位時間あたりの付加価値が低くなりやすい業務特性)

上記2つの構造的な課題が、賃金水準の引き上げを難しくしています。

食品加工の現場では多品種・少量生産や厳しい衛生管理に対応するため、人手による細やかな作業が必要とされる場面が多く、自動化・省力化が進みにくいという現状です。

そのため、食品工場の人材確保では単純な賃金上昇だけでは限界があり、労働環境の改善、業務の効率化、働きがいのある仕組みづくりといった、総合的な施策が求められています。



食品工場の3Kを改善するための取り組み

食品工場における3K問題を解決するため、業界では様々な改善策が実施されています。ここでは、実際に効果を上げている3つの取り組みを紹介します。

  • DXによる品質管理と作業効率の向上
  • 外国人労働者の積極的活用
  • リスクアセスメントによる危険作業の可視化

これらの施策がどのように3K問題の解決に貢献しているのか、それぞれ詳しく見ていきましょう。


DXによる品質管理と作業効率の向上

DXとは、AIやIoTなどのデジタル技術を導入することで、人手不足をはじめとする様々な課題を解決し、生産性の向上を図る取り組みです。農林水産省も先端技術の導入支援や技術の橋渡しをサポートするなど、食品製造業界のDX推進を積極的に後押ししています。

餅を製造している企業では、餅の製造や運搬を手作業で行っており時間がかかっていました。餅つき機やベルトコンベアを導入したことで、4人必要だった作業を2人で行えるようになりました。

また、ケーキを製造・販売している企業では、職人が手作業でケーキ生地の攪拌や生地絞りの作業を行っていました。自動撹拌機と絞り出し機を導入したことで、一日あたりの製造時間が100分の短縮に成功しています。

事例からもわかるように、DXによって、きつい作業の負担軽減・生産性の向上・人手不足の解消など、様々な課題解決が可能です。

食品製造業のDXについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

▶関連記事:DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?定義や食品業界の具体例をわかりやすく解説
▶関連記事:食品製造業のDXとは?重要性や業界の課題・企業の導入事例を紹介


外国人労働者の積極的活用

日本の労働人口は減少の一途をたどっており、2040年には現在よりも525万人減少することが予想されています。深刻な労働力不足に対応するため、食品工場では外国人労働者の活用が重要な解決策となっています。

令和4年時点で日本にいる外国人労働者は182万人に達していますが、そのうち食品製造業で働く外国人は約15万人と全体の8%程度です。外国人労働者の受け入れ体制を整備することで、外国人労働者の入職を促進し、人員不足の解消を図ることができます。

具体的には、外国語に対応したマニュアルの作成や教育体制の構築などが有効です。受け入れシステムを整えることで、外国人労働者にとって働きやすい環境が生まれ、優秀な人材を獲得しやすくなります。


リスクアセスメントによる危険作業の可視化

リスクアセスメントとは、潜在的な労働事故リスクを未然に確認し、リスクを見積もって可視化する取り組みです。食品工場では従業員と共同でリスクアセスメントを実施することで、以下のようなメリットが得られます。

  • 潜在的なリスクの顕在化
  • リスクに対する認識を従業員と共有可能
  • 安全対策のための優先順位の決定
  • 安全技術導入の検討
  • 残留リスクに対する従業員へのルール徹底
  • 費用対効果の面から有効な対策の提案

リスクアセスメントの徹底により重大な労働災害のリスク低減につながり、社会的信用も向上するでしょう。



食品工場の3K改善における課題

食品工場の3K問題を改善するための取り組みを紹介してきました。しかし、実際の導入にあたっては課題も存在します。とくに、食品製造業の大部分をしめる中小企業では以下のような課題に直面することも多くあります。

  • 導入費用の負担
  • デジタル技術を活用できる専門人材の不足
  • 外国人労働者への教育システム構築の壁

これらの課題について、それぞれ詳しく見ていきましょう。

食品工場の課題に対する取り組みや改善策をより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

▶関連記事:食品工場(食品製造業)の課題とは?解決に効果的な取り組みや改善策を紹介


導入費用の負担

富士電機株式会社の「食品製造業におけるDXに関する意識調査」によると、食品製造業におけるIoTなどデジタル技術の活用状況は、業界全体で13.6%にとどまっています。従業員の規模別で見ると5,000人以上の大企業では34.9%と比較的高い水準にある一方で、100人未満の企業では7.3%と、企業規模による格差が顕著に表れています

デジタル技術を活用していない企業の理由としては、「予算の確保・制約」が34.3%と、「推進できる人材」に次いで多く、初期費用やシステムの維持管理にかかるコストが、中小企業にとって大きな負担となっていることが課題です。

中小企業でも導入しやすい低コストのソリューションの開発や、補助金制度の充実が求められています。


デジタル技術を活用できる専門人材の不足

デジタル技術導入の課題として、費用負担の他にも技術を活用できる専門人材が不足しているという課題もあります。

富士電機株式会社の「食品製造業におけるDXに関する意識調査」によると、デジタル技術を導入していない企業の理由として、「推進できる人材不足」が37.4%と最も多く挙げられています。最新のIoT機器やAIシステムを導入しても、それを適切に運用できる人材がいなければ、効果的な活用は困難です。

実際、導入にあたっては、専用ソフトウェアの操作技術やシステムの保守管理スキルが求められるケースが多くあります。しかし、中小企業では人材育成のためのリソースが限られており、既存の従業員に新たなスキルを習得させる余裕がないのが現状です。


外国人労働者への教育システム構築の壁

外国人労働者の受け入れを成功させるためには、外国語対応のマニュアルや外国語を扱える指導員の存在が不可欠です。現在の外国人受け入れ状況を見ると、ベトナム、中国、インドネシアなど様々な国の労働者が働いており、それぞれの母国語に対応したマニュアルや指導員が必要になります。

しかし、複数言語に対応できる指導人材を確保することは、中小企業にとって極めて困難な課題となるでしょう。言語能力だけでなく、食品製造の専門知識も併せ持つ人材となると、さらに希少性が高まります。

この課題を解決するためには、翻訳機などのデジタル技術の導入が急務です。他にも、多言語対応の動画マニュアルなど、デジタル技術を活用した教育システムの構築が求められています。



食品工場の「きつい」をはじめとした3K改善を目指すなら「食品工場Week」へ

食品工場の「きつい」をはじめとした3K改善を目指し、最新情報や技術に興味がある方は、ぜひ「食品工場Week」へご来場ください。食品工場Weekは、食品工場における様々な課題を解決する技術・サービス・情報が一堂に出展する展示会です。

食品工場Weekでは、特別企画として「安全対策・環境改善フェア」を開催しており、作業事故や健康被害を防止するための最新の安全装置・個人用保護具・アシストスーツ・空調設備など、労働環境を革新する製品・サービスが集まります。

また、食品・飲料メーカー、食品加工会社、小売店、GMSなど、課題解決を求める企業が全国から集まり、情報収集や導入検討が活発に行われています。展示会は、事前登録をすれば無料で入場可能です。

関連サービスや製品を扱う企業であれば、出展側として参加することもできます。自社製品の認知度向上だけでなく、食品メーカーの関係者と直接つながる貴重な機会としてご活用いただけます。

来場者・出展社の双方にとってメリットがある展示会のため、食品工場の3K改善に向けた第一歩として、ぜひ食品工場Weekをご活用ください。

■食品工場Week
 東京展:2025年12月3日(水)~5日(金) @幕張メッセ
 大阪展:2026年9月30日(水)~10月2日(金) @インテックス大阪

詳細はこちら

■食品工場Week内「食品工場の安全対策・環境改善フェア」
 東京展:2025年12月3日(水)~5日(金) @幕張メッセ
 大阪展:2026年9月30日(水)~10月2日(金) @インテックス大阪

詳細はこちら



食品工場はきついのかを正しく理解した上で解決策を検討しよう

食品製造業界では、3K(汚い・きつい・危険)のイメージが定着していることにより、その影響もあって深刻な人手不足に直面しています。

食品工場の課題解決には、AIやIoTをはじめとする最新技術の導入が効果的です。DXの推進や外国人労働者の活用、リスクアセスメントの実施など、様々な改善策が3K問題の解決に貢献しています。しかし、導入コストの負担や専門人材の不足など、中小企業にとっては実現が困難な課題も多く存在します。

上記の悩みを抱える企業にとって、「食品工場Week」や「食品工場の安全対策・環境改善フェア」は貴重な情報収集の場です。最新技術に触れることで、自社に適した解決策を見つけることができるでしょう。

食品工場における課題解決は、すぐには解決することが難しいですが、正しい現状認識と適切な対策により、確実に前進することが可能です。

■食品工場Week
 東京展:2025年12月3日(水)~5日(金) @幕張メッセ
 大阪展:2026年9月30日(水)~10月2日(金) @インテックス大阪

詳細はこちら

■食品工場Week内「食品工場の安全対策・環境改善フェア」
 東京展:2025年12月3日(水)~5日(金) @幕張メッセ
 大阪展:2026年9月30日(水)~10月2日(金) @インテックス大阪

詳細はこちら




▶監修:宮崎 政喜(みやざき まさき)

エムズファクトリー合同会社 代表 / 料理人兼フードコンサルタント

出身は岐阜県、10代続く農家のせがれとして生まれ、現在東京在住。プロの料理人であり食品加工のスペシャリスト。また中小企業への経営指導、食の専門家講師も務めるフードコンサルタントでもある。飲食店舗・加工施設の開業支援は200店舗以上。料理人としてはイタリアトスカーナ州2星店『ristorante DA CAINO』出身。昨今、市町村や各機関からの依頼にて道の駅やアンテナショップも数多く手掛ける。今まで開発してきた食品は1000品目を越え、商品企画、レシピ開発、製造指導、販路開拓まで支援を日々実施している。



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