食品工場(食品製造業)の課題とは?解決に効果的な取り組みや改善策を紹介

食品工場は、人手不足や作業負担の増加など様々な課題を抱えており、それぞれ適切に対応する必要があります。一方で、リソース不足で対応に困っている企業も多く見られます。

本記事では、食品工場が抱える課題と解決・改善のための取り組みを紹介します。食品工場の経営に携わっており、課題への対応に困っている方は参考にしてください。




食品工場を含む食品製造業の市場動向

農林水産省のデータによると、令和6年の食品製造業生産額指数は対前年比6.6%、生産指数は4.0%増加しています。近年は新型コロナ感染症の影響などで低下傾向にあったものの、令和2年から令和6年にかけて徐々に上昇しています。

また、令和元年比で名目GDP(国内総生産)は9.2%、実質GDPは0.9%と、新型コロナ感染症の影響による経済停滞から回復しました。

令和5年度の食品製造業の売上高は47兆8千億円で、対前年度比5.2%の増加となりました。売上総利益率は24.8%(対前年度比+3.0pt)、売上高営業利益率は3.1%(対前年度比+1.2%)と上昇しています。

このように食品製造業の市場は好調ですが、エネルギー価格や原材料価格の高騰など、依然として課題も多い状況です。

農林水産省では、食品産業が持続的に発展していくための方向性をとりまとめた資料を公表しています。以降では、食品工場が抱える課題を詳しく紹介します。


食品工場(食品製造業)が抱える課題

食品工場が抱える課題は主に以下のとおりです。

●     労働力人口の減少による人手不足
●     品質管理基準の強化による負担
●     安全管理業務が優先されにくい現場の実情
●     環境問題やフードロスの対策強化による負担
●     原材料の高騰などによる生産コストの増加
●     AI・IoT技術を活用した効率化・DXの遅れ
●     少子高齢化に伴う事業承継の課題(後継者不足)

それぞれ詳しく解説します。


労働力人口の減少による人手不足

少子高齢化に伴い、日本では多くの業界が人手不足の問題を抱えています。特に製造業は少子高齢化の影響が深刻化している業界であり、製造業のなかでも食品製造業は人手不足を感じている企業が多い業種です。

さらに2050年にかけて人口ピラミッドは逆三角形になり、2070年には高齢化率が約39%に達すると想定されています。労働人口は今後もますます減少するでしょう。

すでに人手不足が深刻な食品工場では、今後のさらなる人手不足に備えた対応が急がれています。


品質管理基準の強化による負担

食品は、異物混入や衛生不備などのトラブルを未然に防ぐため、徹底した品質管理が求められます。食品安全基本法をはじめとする法律を遵守しながら、厳格な衛生・品質管理のもと製造しなければなりません。

近年ではHACCP(ハサップ)に基づいた衛生管理の義務付けや、トレーサビリティの徹底が重要視されています。

HACCPとは、食中毒や異物混入などのリスクを防ぎ、食品の安全を確保するために、重要な工程を事前に分析し特定することで集中的に管理する手法です。2021年より原則全ての食品等事業者に対して、HACCPに基づく衛生管理の導入が義務化されています。

トレーサビリティは、食品が「いつ、どこで、誰によって、どのように作られ、流通してきたのか」などの情報を追跡して遡れるようにする仕組みのことです。食品事故が発生した際の、速やかな原因の特定や該当食品の回収、被害の最小化を目的としています。

このような厳格な品質管理体制の整備は、食品の安全性向上に大きく貢献する一方で、食品工場の現場では追加の人員配置や業務フローの見直しが必要となり、運用コストの増大などの負担につながっています。

HACCP(ハサップ)やトレーサビリティについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

▶︎関連記事:HACCP(ハサップ)とは?概要や対象事業者、メリットと注意点をわかりやすく紹介
▶︎関連記事:食品トレーサビリティの取り組みと導入メリットとは?課題点や事例を紹介


安全管理業務が優先されにくい現場の実情

食品工場では、食の安全だけでなく、従業員が安全に働ける環境作りも重要です。しかし、食品工場での事故発生頻度は製造業の平均より2倍高いとされています。

食品工場を含む食品業界では、品質管理や納品期日など対応すべき事項が多く、安全対策が後回しになりやすい傾向があります。さらに、食品工場には事故が起こりやすい様々な要因が存在しています。主な要因は以下のとおりです。

食の安全を守るとともに、職場の安全も改善しなければならない課題のひとつですが、日々の業務負担が大きく安全対策まで手が回らない課題を抱えています。

食品工場での安全対策についてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

▶︎関連記事:食品工場での安全対策は?起こりやすい労働災害や従業員の安全と健康を守る方法を解説


環境問題やフードロスの対策強化による負担

国際的に持続可能な社会の実現を目指すなかで、食品業界にも環境負荷の低減やフードロス削減が求められています。カーボンニュートラルやフードロス対策は、食品工場にも関係が深い代表的な取り組みです。

カーボンニュートラルとは、排出されるCO2(二酸化炭素)などの温室効果ガスの量と、植林や再生可能エネルギーの活用などによって吸収・削減される量を差し引きして、実質的に排出量をゼロにする考え方です。2050年までに達成することを目標に、国主導で対策が進められています。

フードロスとは、まだ食べられるにも関わらず捨てられてしまう食品をさし、食品ロスと呼ばれることもあります。令和3年の推計では年間523万トンのフードロスのうち、53%にあたる279万トンが事業系のフードロスとされています

社会的責任を果たすためにはフードロスへの対応が不可欠であり、サプライヤーの選定基準に社会問題への取り組みを含んでいる企業もあります。

しかし、フードロス削減は企業にとって必要な取り組みではあるものの、対応のためのコストや労力が負担になることがあります。

フードロスについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

▶︎関連記事:フードロス(食品ロス)の問題点とは?日本の現状や企業が取り組める対策を紹介


原材料の高騰などによる生産コストの増加

近年、原材料価格やエネルギーコストの高騰が続き、多くの食品メーカーが厳しい経営判断を迫られています。2024年7月に行った日本政策金融公庫のアンケートでは、コストについて9割以上の企業が「前年同期と比較して増加した」、約6割の企業が「10%以上増加した」と回答しています

特に日本は食料自給率が低い国です。輸入に依存している製品が多く、為替の変動も影響しやすいため、コスト管理がより困難になります。

最低賃金の上昇や前述した品質・安全管理体制の強化もコスト増加の一因です。コストの上昇を価格に転嫁する必要があっても、「消費者の理解が進んでいない」「他社にシェアを奪われるおそれがある」といった現状から、価格転嫁できておらず大きな課題となっています。

その結果、製造現場に「もっと安く作れないか?」「人件費を削れないか?」といった圧力がかかることも多く、「品質を落とさずコストだけを削減」という無理な要求が、現場のモチベーション低下や品質トラブルにつながっている場合もあります。


AI・IoT技術を活用した効率化・DXの遅れ

AIやIoT技術は企業のDXに貢献し、様々な課題を解決する技術として注目されています。DXとは「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)」の略です。デジタル技術を活用して、ビジネスや組織の在り方を根本から変革し、価値を創出することをさします。

食品工場でも、品質管理や在庫管理にAI・IoT技術を取り入れ、DXを推進する動きが見られます。2024年2月~5月に行ったIPA(独立行政法人情報処理推進機構)のアンケートによると、製造業全体ではDXに取り組んでいる企業は77%と高い水準です※1

一方、業務に、現代のIT環境に適合しにくいレガシーシステムを使用している企業は5割を超えており、完全にDXが進んでいるわけではありません。食品製造業に限定すると、IoT・デジタル技術の活用状況は33.2%に留まっています※2。活用が進まない主な理由は以下のとおりです。

●     初期費用の負担が大きそうだから
●     デジタル技術に詳しい人材がいないから
●     ランニングコストの負担が大きそうだから
●     事業規模的に必要性を感じていないから
●     活用した際の効果が不明確だから

上記のように、DXは課題解決に有効である一方、導入や運用の際に課題が見られます。食品製造業のDXについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

▶︎関連記事:食品製造業のDXとは?重要性や業界の課題・企業の導入事例を紹介


少子高齢化に伴う事業承継の課題(後継者不足)

日本の食品製造業は、経営者の高齢化が進み、後継者不足による事業承継の問題が深刻化している業界です。小規模な企業の社長は3~5割程度が70歳以上であり※1、後継者が見つからず廃業に至るケースも少なくありません。

農林水産省が行ったアンケートによると、「事業承継するつもりはない」「考えていない」との回答も多く見受けられます※1。一方、事業承継を考えている企業では、「承継のための資金が足りない」「自社に合ったパートナーを探すのが困難」「人材育成などの新たなコストの発生」などの課題に悩んでいるとのアンケート結果もあります※2

特に、職人の手作業に支えられてきた中小の工場では、その技術をどう継承していくかが大きな課題です。長年の経験や感覚にもとづいているため、マニュアルや短期間の指導では十分に伝えきれません。その結果、後継者が育たず、現場には不安や葛藤が広がっています。


食品工場(食品製造業)の課題解決に効果的な取り組み

以下は食品工場の課題解決に効果的な取り組みの一例です。

●     多様な人材の採用や働き方の見直しを行う
●     5S・7S活動を徹底する
●     従業員の教育を効率化・標準化する
●     AI・IoT技術を導入して自動化する
●     M&Aを活用する

それぞれ詳しく紹介します。


多様な人材の採用や働き方の見直しを行う

人手不足は深刻かつ解決が急務な課題のひとつです。外国人材の受け入れは、国主導のもと食品製造業で進められている人手不足対策です。令和4年10月末時点では外国人労働者約182万人中約15万人(約8%)が食品製造業で採用されています

採用の強化に加え、従業員が柔軟な働き方を選べる環境を作るなどして「いかに従業員を減らさないか」を考えることも重要です。

実際に、離職した人の再雇用の実施や出産後の従業員に対する短時間勤務制での支援、有給休暇の連続取得制度の導入などで定着率が向上した事例があります。労働環境に関しては、上層部の意思だけで制度を作らず、従業員とコミュニケーションをとって意見を聞くことが大切です。

また、取り組みの効果や実施状況を定期的にチェックする必要があります。聞き入れた意見や制度が活用されなければ、会社の風土は変わらず、定着率は改善しない可能性があります。


5S・7S活動を徹底する

5Sとは整理・整頓・清掃・清潔・しつけをさします。7Sは5Sに洗浄・殺菌を加えたもので、目に見えない微生物レベルの清潔さを目指す指標です。5Sや7Sの徹底により、以下の効果が期待できます。

●     作業効率の改善
●     異物混入の防止
●     品質の向上
●     設備故障の低減
●     安全の確保
●     従業員の意欲向上

5Sや7Sにより効果が出ると、結果的に手戻りや対応の手間が減り、コストの削減にもつながります。

5Sや7Sは食品の安全を確保するための基本ですが、徹底することで食品工場の課題改善も期待できます。5Sや7Sは誰かひとりが徹底するのではなく、従業員全員が意識的に心がけることが大切です。


従業員の教育を効率化・標準化する

経験年数の少ない若者や高齢者、外国人労働者など多様な働き手が混在する食品工場では、作業マニュアルの整備や教育体制の確立も重要です。マニュアルや動画資料を活用することで、効率的に教育が行えます。

こうした教育により、従業員のスキルがアップし、品質や作業効率の向上、安全性の確保につながるでしょう。また、従業員が安全に働ける環境の構築やスキルアップにより、離職率の改善も期待できるかもしれません。

厚生労働省からは「未熟練労働者に対する安全衛生教育マニュアル」が提供されています※1。また、OTAFF(一般社団法人外国人食品産業技能評価機構)から、外国語に対応した労働災害防止や安全な作業の教育動画が提供されているため、マニュアルを作成する際に有効活用すると良いでしょう※2


AI・IoT技術を導入して自動化する

食品工場では、食の安全や品質だけでなく、社会問題にも対応しなければならないなど、対応が必要な課題は様々です。課題が多く、リソース不足に悩んでいる経営者も多いかもしれません。

近年では、食の問題をAIやIoT技術を活用して解決する「フードテック」が注目されています。AIやIoT技術を導入し、業務管理を行う工場は「スマートファクトリー」と呼ばれます。フードテックを導入することにより、解決が期待できる課題の一例は以下のとおりです。

●     人口増加による食料不足・飢餓の改善
●     フードロス(食品ロス)の削減
●     業務の最適化・人手不足の改善
●     食の安全性向上
●     多様な食習慣ニーズへの対応

AIやIoTは様々な種類・製品があるため、情報収集を行い、自社の課題にあわせた技術の導入が大切です。

フードテックについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

▶︎関連記事:フードテックとは?食品業界が注目する背景や市場規模・導入事例を紹介


M&Aを活用する

後継者不足や技術継承に悩む企業にとって、M&A(企業の合併・買収)は有力な選択肢のひとつです。自社の想いや技術を理解し、共感してくれる企業と手を組むことで、「廃業せずに会社を残す」「従業員の雇用を守る」「受け継いできたブランドや味を未来につなぐ」といった道が現実的に拓けます。

また、事業拡大を目指す企業にとっても、M&Aは生産設備・人材・販路を一括で得られる効率的な手段です。ゼロからの立ち上げに比べて時間もコストも抑えられ、スピーディーな成長を可能にします。

ただし、M&Aには慎重な準備と見極めも不可欠です。買い手との相性が悪ければ、企業文化の違いによる摩擦や従業員の離職が起きる可能性があります。売り手側も「思い入れのある会社がどのように扱われるか」に不安を感じることは少なくありません。さらに、売却価格や契約条件の交渉には時間がかかることもあり、想定どおりに進まないケースもあります。

そのため、M&Aを成功させるには、経営だけでなく現場の声も大切にしながら、専門家の支援を受けて丁寧に進めていくことが重要です。感情・文化・人間関係といった「数字では見えない部分」にも配慮することで、M&Aによる事業承継がよりスムーズに進む可能性が高まるでしょう。



食品工場の課題を解決・改善を目指すなら「食品工場Week」へ

食品工場の課題解決に活用できる最新情報・技術に興味があるなら、ぜひ「食品工場Week」にご来場ください。食品工場Weekは、食品工場の自動化・DX関連から、食品衛生、安全・環境対策、食品ロス対策まで食品工場に関する先端技術・サービスが一堂に出展する展示会です。

AIソリューションやIoT、製造・検査装置など、予知保全に関わるシステムも出展します。会場では工場の自動化・省人化・DXなど、フードテックに関する最新情報の収集も可能です。食品工場の課題解決に役立つ情報収集だけでなく、食品業界に関するトレンドを知る機会としてご活用ください。

また、「食品工場の安全対策・環境改善フェア」も同時開催します。最新の安全装置、個人用保護具、アシストスーツ、空調設備など、労働環境を改善する製品・サービスが一堂に出展する展示会です。展示会へは、事前登録すれば無料で入場可能ですので、食品工場の安全対策や環境改善の課題を抱えている方は、ぜひご来場ください。

関連サービスや製品を扱う企業なら、自社製品の認知度向上の場や食品メーカーの工場関係者とつながる機会としてご活用いただけます。具体的な商談の実現・リード案件獲得につながる可能性があるので、出展もご検討ください。

■ 食品工場 Week
東京展:2025年12月3日(水)~5日(金) @幕張メッセ
大阪展:2026年9月30日(水)~10月2日(金) @インテックス大阪



食品工場(食品製造業)の課題の解決・改善には最新技術の導入を検討しよう

食品工場は品質管理や安全対策、人手不足、原料価格の高騰など、数多くの課題を抱えています。ひとつひとつの負担が大きく、リソース不足で全てに対応することが難しいケースは少なくありません。

その課題を効率的に解決・改善する方法のひとつが、AIやIoTをはじめとする最新技術の導入です。食品工場の課題の対応ができず困っているなら、ぜひ「食品工場Week」にご来場ください。

展示会では、食品工場の課題解決に関する情報収集ができます。また、課題解決に悩む食品メーカーも来場するため、商談の獲得の場にもご活用いただけます。来場側、出展側の双方にメリットがあるため、ぜひこの機会にご来場ください。

■ 食品工場 Week
東京展:2025年12月3日(水)~5日(金) @幕張メッセ
大阪展:2026年9月30日(水)~10月2日(金) @インテックス大阪



▶監修:宮崎 政喜(みやざき まさき)

エムズファクトリー合同会社 代表 / 料理人兼フードコンサルタント

出身は岐阜県、10代続く農家のせがれとして生まれ、現在東京在住。プロの料理人であり食品加工のスペシャリスト。また中小企業への経営指導、食の専門家講師も務めるフードコンサルタントでもある。飲食店舗・加工施設の開業支援は200店舗以上。料理人としてはイタリアトスカーナ州2星店『ristorante DA CAINO』出身。昨今、市町村や各機関からの依頼にて道の駅やアンテナショップも数多く手掛ける。今まで開発してきた食品は1000品目を越え、商品企画、レシピ開発、製造指導、販路開拓まで支援を日々実施している。



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