食品業界の品質管理・衛生管理とは?重要な理由や管理項目、改善方法を紹介

食品の品質管理を怠ると消費者の命や企業の存続に関わります。そのため、食品の品質管理は一般的な品質管理に比べ、より厳格に行わなければなりません。

本記事では、食品の品質管理の重要性や目的、管理項目を紹介します。関連法令、品質管理精度の向上や効率化の方法も紹介するため、食品業界に携わっている方は参考にしてください。




食品の品質管理が重要な理由や目的

品質管理(Quality Control , QC)は、一定の基準で製品の品質を維持・向上させるため、検査や工程の監視・改善などを行う管理活動です。品質管理の主な目的は「安全性や衛生面の確保」ですが、食品の品質には「おいしさ」も含まれます。食品の安全性や衛生面を確保しながら、品質(風味や食感など)管理が求められます。

特に食品は消費者の健康に直接影響を与えるため、「安全・安心」は重要な要件です。食品の安全性に問題があると、最悪の場合、消費者の命に関わる重大な事故につながるかもしれません。また、事故を起こした企業は存続そのものが危ぶまれる事態に発展する可能性もあります。そのため、衛生管理を含めたより厳格な品質管理を行う必要があります。

食品を取り扱う企業には、食品安全基本法や食品衛生法などをはじめとした関連法令に従った品質管理が求められる他、近年ではHACCP(ハサップ)に基づく衛生管理も求められています。

HACCPについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

▶︎関連記事:HACCP(ハサップ)とは?概要や対象事業者、メリットと注意点をわかりやすく紹介


食品業界の経営者や食品衛生責任者の役割

食品関連企業が食品安全を目指す国際規格の食品安全管理システム(FSMS)「ISO22000」は、食品業界の経営者に以下の役割を求めています。

  1. 食品安全方針と目標を明確にして文書化し、全従業員に周知徹底すること
  2. 食品安全方針は、お客様が求める品質を満足し、かつ法令違反が起こらない品質保証体制を経営責任として構築すること
  3. 管理状況を定期的な見直し(マネジメントレビュー)により、常に継続的な改善を指示する
  4. 品質保証体制を機能させるために必要とされる経営資源(人材、モノ、資金、情報)を適切に投入する

※出典:一般社団法人 食品産業センター(平成25年度農林水産省補助事業)「HACCP基盤強化のための衛生・品質管理実践マニュアル

食品を扱う業種では、食品衛生責任者や食品衛生管理者の役割も重要です。

飲食店をはじめとする施設では、原則として食品の衛生を管理する「食品衛生責任者」を設置しなければなりません。また、食品衛生法施行令で定められている食品の製造または加工を行う特定の業種では、施設ごとに専任の「食品衛生管理者」を置く必要があります。

食品衛生管理者や食品衛生責任者は、製造現場で食品の安全性に関する活動のリーダーとして、経営者が示した方針や目標を周知するなどの役割を担っています。

食品衛生管理者についてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

▶︎関連記事:食品衛生管理者とは?選任が必要な業種や資格の取得要件をわかりやすく紹介!


食品の品質管理を行う際の基盤

食品の品質管理を行う際の基盤となる項目は以下のとおりです。

  • 衛生管理や異物混入防止対策の実施
  • 検査基準の明確化と作業マニュアルの作成
  • 従業員の管理・教育
  • 工場内・設備の整備と管理

それぞれ詳しく紹介します。


衛生管理や異物混入防止対策の実施

食品事故は異物混入やアレルゲン混入、食品表示の誤りが原因として多く、食中毒や健康被害につながるおそれがあります。食中毒が起こる要因は「微生物によるもの」「自然毒によるもの」「寄生虫によるもの」など、様々です。食中毒の防止対策の一例として、以下が挙げられます。

  • 新鮮な食材の使用
  • 食材の十分な洗浄
  • 食材の十分な加熱

異物混入には外部由来(昆虫や金属片など)と内部由来(頭髪や爪など)があり、それぞれ異なる対策が必要です。

外部由来の異物混入防止対策としては金属検出機やX線異物検出機を使用し、異物を検出・除去する方法があります。近年ではAIやIoT技術を活用した精度が高い検出機も開発・導入されています。また、内部由来の異物混入防止策としては、後述する従業員への作業マニュアルの周知や衛生管理強化の実施が重要です。

異物混入についてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

▶関連記事:異物混入対策とは?食品工場・製造現場の事例と原因を解説


検査基準の明確化と作業マニュアルの作成

製造過程の管理を行う際には、管理のルールや基準を明確にし、マニュアルを作成して従業員に周知することが大切です。

ルールや基準、マニュアルの作成は品質を安定させるだけでなく、製造が円滑になり生産性の向上に貢献します。基準を決めることによって、改善のポイントやトラブル発生時の対応も行いやすくなるでしょう。


従業員の管理・教育

食品の品質を守るためには、従業員の衛生面や健康状態も重要です。具体的に以下の内容をチェック・実施しましょう。

  • 製造室入場時の衛生チェック
  • 作業前の健康状態のチェック
  • 作業着が正しく着用できているかのチェック
  • 粘着ローラーによる毛髪の除去
  • エアーシャワーによる毛髪の除去
  • 正しい手洗い方法の徹底

最新のシステムや機器を導入しても、動かすのは従業員です。製品の質や状態は従業員に左右されるため「品質管理は人質管理」とも呼ばれています。つまり、従業員の教育が食品の安全性を支える柱となります。

また、従業員の機械の操作精度や品質の規格に関する理解度を向上させる教育を取り入れることも大切です。代表的な教育方法には、中堅社員による教育(OJT)が挙げられます。


工場内・設備の整備と管理

食の安全確保や品質の維持・向上には、ソフト面(管理システムなど)とハード面(施設・設備の整備)の両方を適切に管理することが重要です。対策方法の一例として以下が挙げられます。


食品の製造過程に関する品質管理

食品の製造過程に関する品質管理では以下の点に注意します。

  • 原材料の検査・管理
  • 製造工程・製品の管理
  • トラブル発生時の対応手順の明確化
  • 表示事項の管理・アレルギー物質の区分管理
  • 製品情報の管理(トレーサビリティ)

それぞれ詳しく紹介します。


原材料の検査・管理

食品の安全性を確保するためには、安全で品質の良い原材料を使わなければなりません。原材料は品質に大きな影響を与えるため、製造工程では重要な管理項目です。

原材料のリスク要因を明確にするためには、過去の検査結果や関連する文献・資料を参考にし、リスクの大きさを理解しておきましょう。特に受け入れ検査の結果は、製造過程で対処方法を判断する上での重要なデータです。

受け入れ検査は以下の項目に分類できます。

受け入れ検査の判定は入荷ロット間のばらつきを考慮し、「合格」「条件付き適合」「不合格」の3つに区分します。検査結果は社内の関係部署と共有するだけではなく、納入業者へのフィードバックも大切です。

また、受け入れた原材料は適切な条件で保管し、長期滞留による使用期限切れを起こさないように管理しましょう。


製造工程・製品の管理

製造工程の管理は食品の種類によって様々です。一般的な食品に共通する製造工程の管理事項は以下です。

製品は最終検査を行い、適切な方法で保管管理しましょう。検査の基準は法令や条例に従います。もし法令に該当しない場合、自主基準を設定して検査を行います。検査頻度は製品検査の信頼度に大きく影響するため適切な頻度に設定し、基準が外れる事象が発生した場合は頻度を高めることが大切です。

製品は適切な温度で保管し、出荷後にトラブルが報告された際に該当製品を確認できるよう、一定の割合でサンプルを保管しておきましょう。


トラブル発生時の対応手順の明確化

製造工程でトラブルを起こさないことが重要ですが、トラブルが発生した際の対応手順をあらかじめ明確にしておき迅速に対応することも大切です。対応手順を事前に決めておくと被害を最小限に抑えられ、二次被害の防止や再発防止にもつながります。

  1. 工程トラブルの発生
  2. 原因の究明と特定
  3. 修正処置の実施
  4. 製造ラインの稼働再開
  5. 改善処置の効果の確認
  6. 再発防止(是正)策の実施
  7. 改善効果の検証

出荷予定の製品は、該当する製品を特定・区分し出荷可否の判断をします。


表示事項の管理・アレルギー物質の区分管理

食品表示に関する事項は、法律や条例で定められています。表示内容は以下のとおりです。

  • 名称
  • 原産地(生鮮食品)
  • アレルゲン
  • 遺伝子組み換え表示
  • 添加物
  • 内容量
  • 賞味期限、消費期限
  • 保存方法
  • 原産国(輸入国)
  • 原料原産地(対象品)
  • 事業者の名称、所在地
  • 栄養成分、熱量
  • 表示に用いる文字の大きさなど

特にアレルギー物質の表示を誤ると、消費者の生命にかかわる重篤な事態を招くおそれがあります。表示の義務があるもの、推奨されているものは以下のとおりです。また、表示推奨の品目であるカシューナッツは、2025年度中に義務表示対象の品目に追加されます。


製品情報の管理(トレーサビリティ)

食品のトレーサビリティとは、「いつ、どこで、どのように製造されたか」などの情報を明確にしたものをさします。品質事故が発生した際に、食品の移動ルートを遡及・追跡して、原因究明や商品回収などを円滑に行えるようにする仕組みです。

食品衛生法では、仕入れ元および出荷・販売先などに係る記録の作成・保存に関する努力義務が明記されています。 

一方、牛や米をはじめとする特定の対象商品は「牛トレーサビリティ法」「米トレーサビリティ法」が別途制定されており、特定の情報の表示・記録が法律によって義務付けられています。

トレーサビリティに関する取り組みは、食品事故の対応をスムーズにするだけではなく、消費者からの信頼確保にもつながります。

食品トレーサビリティについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

▶関連記事:食品トレーサビリティの取り組みと導入メリットとは?課題点や事例を紹介


食品の品質管理に関連する法規制や認定制度

食品の品質管理に関連する法令は複数ありますが、特に食品業界全般に関連が深いものは以下のとおりです。

その他、農産業に関連する「農薬取締法」や「肥料取締法」、畜産業に関する「家畜伝染病予防法」などがあります。

また、ISO22000やFSSC22000、ISO9001など食品安全に関わる国際標準規格もあります。国際標準規格は義務ではありませんが、準拠することで信頼性の向上や法規制への適合、取引機会の拡大などが期待できるでしょう。

さらに、衛生管理手法「HACCP(ハサップ)」も食品を取り扱う業者には関係が深い法律です。2021年6月1日から完全義務化されており、原則全ての食品等事業者はHACCPに沿った衛生管理の実施が必要です。

HACCPについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

▶︎関連記事:HACCP(ハサップ)とは?概要や対象事業者、メリットと注意点をわかりやすく紹介



食品の品質管理の精度や業務効率を向上させる方法

食品の品質管理の精度や業務効率を向上させる方法は以下のとおりです。

  • PDCAサイクルを回す
  • TQM(TQC)活動に取り組む
  • コンプライアンスを遵守する
  • 品質管理に関する最新技術を活用する

それぞれ詳しく紹介します。


PDCAサイクルを回す

品質管理の精度を高めるためには、PDCAサイクルを円滑に回すことが大前提です。改善を実施した問題が再発する際には、PDCAが適切に回っていないことが原因とされています。

PDCAサイクルを回すためには以下のポイントを意識しましょう。

  • 現状把握を行い、問題点を明確にする
  • 改善策を立案時に関係部署の意見を聞き、同意を得る
  • 改善策の実施後は、期待どおりの成果が出ているかを確認する
  • 問題が解決されていない場合は、再度原因を究明して改善策を修正する

TQM(TQC)活動に取り組む

TQM(Total Quality Management)とは、総合的品質管理・総合的質管理を意味する言葉です。品質全般に対して維持・向上を図るための考え方や取り組みをさします。従来はTQC(Total Quality Control、全社的品質管理)と呼ばれていましたが、企業活動全体を視野に入れた取り組みの意味合いを持たせるためControlからManagementに置き換えられました。

従業員個人のスキルや意識では限界があるため、PDCAサイクルや5S(整理、整頓、清潔、清掃、しつけ)をはじめとした取り組みにより、組織全体で品質を重視する風土づくりを行うことが大切です。


コンプライアンスを遵守する

食品を取り扱う企業は法令の遵守だけではなく、社会的な責任も意識して品質管理を行う必要があります。食品業界では度々産地偽装や表示偽装が発生しており、特定の個人ではなく組織ぐるみで行われているケースも少なくありません。

そのため、企業にはコンプライアンス(法令遵守と社会倫理に適合した行動)を遵守しつつ、主体的に食品の品質管理に取り組むことが求められています。

農林水産省は、コンプライアンスや消費者の信頼確保への指針として、平成20年3月に「食品事業者の5つの基本原則」を策定しています。

  • 消費者基点の明確化
  • コンプライアンス意識の確立
  • 適切な衛生管理・品質管理の基本
  • 適切な衛生管理・品質管理のための体制整備
  • 情報の収集・伝達・開示等の取り組み

品質管理に関する最新技術を活用する

品質管理を徹底するためには人的、経済的リソースが必要になります。リソース削減や業務の効率化を目的に、品質管理の精度を向上させる最新技術を導入することも効果的です。

例えば、品質管理や検査の工程にAI・ロボットを導入すると、品質管理の精度を向上させつつ業務の効率化・自動化が期待できます。

最新技術の導入にはコストがかかるため、まずは有効な技術や食品業界の品質管理に特化した製品に関する情報収集を行うことが重要です。


食品の品質管理に関する最新技術に興味があるなら「食品衛生イノベーション展」へ

食品の品質管理に関連する製品の比較検討や最新技術の情報収集に興味があるなら、「食品衛生イノベーション展」にぜひご来場ください。「食品衛生イノベーション展」とは、食品工場の衛生管理や安全対策に関する最新ソリューションが一堂に出展する展示会で、「食品工場Week」の構成展のひとつです。

展示会では、AI・外観検査、監視カメラ、入退室管理、HACCP関連、洗浄・殺菌、衛生・クリーン資材など様々な製品・サービスが出展します。有力企業の取り組み事例や業界トレンドなどのセミナーも開催されるため、品質管理に関する最新情報を知ることが可能です。

展示会へは事前登録すれば無料で入場可能なので、衛生課題を解決するためのヒントをお探しの方や業界の動向にご興味がある方は、ぜひご来場ください。

また、関連サービスや製品を扱う企業なら出展側での参加も可能です。自社製品の認知度向上の場や、新規リード獲得・営業強化の機会にご活用ください。

■食品衛生イノベーション展 東京 2025
 会期:2025年12月3日(水)〜5日(金)
 会場:幕張メッセ

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食品の品質管理・衛生管理の精度向上は企業が優先するべき事項

食品は体内に入るものです。食品の品質管理・衛生管理は消費者の命に関わり、重大な事故が発生した場合には企業の存続にも関わります。そのため、品質管理・衛生管理の精度向上は優先すべき事項です。

食品の品質管理・衛生管理に関しては、関連法令や国際標準規格など様々な基準があります。リソース不足で精度向上が難しく、品質管理業務の負担が大きくなっているなら、最新技術の導入も検討しましょう。

食品の品質管理に関する情報収集なら、ぜひ「食品衛生イノベーション展」にご来場ください。展示会では品質管理業務の効率化・自動化に関連する情報や食品業界のトレンドに関する情報の収集が可能です。

来場側、出展側の双方にメリットがあるため、ぜひご検討ください。

■食品衛生イノベーション展 東京
 会期:2025年12月3日(水)~5日(金)
 会場:幕張メッセ

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▶監修:宮崎 政喜(みやざき まさき)

エムズファクトリー合同会社 代表 / 料理人兼フードコンサルタント

出身は岐阜県、10代続く農家のせがれとして生まれ、現在東京在住。プロの料理人であり食品加工のスペシャリスト。また中小企業への経営指導、食の専門家講師も務めるフードコンサルタントでもある。飲食店舗・加工施設の開業支援は200店舗以上。料理人としてはイタリア トスカーナ州2星店『ristorante DA CAINO』出身。 昨今、市町村や各機関からの依頼にて道の駅やアンテナショップも数多く手掛ける。今まで開発してきた食品は1000品目を越え、商品企画、レシピ開発、製造指導、販路開拓まで支援を日々実施している。



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