異物混入対策とは?食品工場・製造現場の事例と原因を解説

食品工場や飲食店など、人が口にする食べ物を扱う事業者にとって、異物混入は大きな問題です。

万が一、異物を口にした人の健康が損なわれれば、提供した側の責任を問われる事態に発展します。また、健康上の問題は発生しなくても、口にした人の気分を害してしまう場合があります。心理的なダメージを受けた顧客は、商品や事業者へ不信感を持つでしょう。

本記事では異物混入の事例を紹介するとともに、原因や対策を解説します。安心・安全な食品を提供するため、原因を理解して正しい対策を行いましょう。



異物混入とは異物が何らかの過程で入ってしまう事象

異物混入とは、本来入るべきではない物質が何らかの過程で入ってしまう事象です。食品への異物混入は、口にした人の体への直接的な影響だけでなく、精神的なダメージも与えます。

食品を取り扱う事業者は、食品を口にする人の健康被害等を防止するため、製造から流通に至るまで全ての過程で注意を払わなければなりません。

安心・安全な食品を提供するため、異物混入への対策と発生した場合の対処法を万全にしましょう。


異物混入の発生件数

東京都福祉保健局のデータによると、2021年の東京都内の異物混入による苦情件数は561件でした。異物が混入した食品分類を見ると「調理済み食品」が圧倒的に多く、その後に菓子類が続きます。

混入した異物の分類は、特に虫が多く、合成樹脂類、動物性異物、鉱物性異物が続く結果です。

なお、取り上げた数値は公的な窓口へ寄せられた相談件数です。店側と顧客の話し合いで解決したケースや、顧客が苦情を入れない可能性も考慮すると、実際にはより多くの異物混入が発生していると考えられます。



食品を扱う事業者はHACCPに沿った衛生管理が必須

2021年6月からHACCP(ハサップ)に沿った衛生管理が制度化されました。食品の製造・加工、調理、販売する全ての事業者は、衛生管理計画を作成して衛生管理に取り組まなければなりません。

HACCPは「Hazard Analysis and Critical Control Point」の頭文字を取った略称です。日本語では「危害要因分析重要管理点」と訳します。

衛生管理の徹底は、異物混入を防ぐ意味でも重要です。食品工場や飲食店は、衛生管理を徹底しましょう。

HACCPについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

▶関連記事:HACCP(ハサップ)とは?概要や対象事業者、メリットと注意点をわかりやすく紹介



食品工場や飲食店で起こる異物混入の事例

飲食製造業で実際に発生した異物混入の事例を種類ごとに解説します。

  • 昆虫や小動物、寄生虫など動物由来のもの
  • 金属片や樹脂片、骨などの硬質なもの
  • 糸くずやビニール片など軟質なもの
  • 人に由来するもの
  • カビや細菌、ウイルスなどの有害物質
  • 入るべきではない食材や添加物

昆虫や小動物、寄生虫など動物由来のもの

食品への異物混入事例は動物に由来するものが多く、ゴキブリやハエなどの昆虫は代表例です。他にも、動物の体毛・羽やフン、アニサキスなどの寄生虫などが混入した事例が存在します。

また、原因となる動物が入り込んで混入に至るケースだけでなく、食肉加工の過程で動物の体毛が入ったり、衣服に付着したペットの毛が混入したりするケースも存在します。

食中毒などの健康被害をおよぼす可能性がある他、健康に害はなくても、食品に混入するだけで多くの人は嫌悪感を抱くでしょう。

下表は、昆虫や小動物、寄生虫など動物由来の異物混入の一例です。


金属片や樹脂片、骨などの硬質なもの

製造時に使用した機器の破損で生じる欠片や、ガラス・陶器の破片のような硬質な異物は、口に入れたり飲み込んだりすると健康被害をおよぼす危険性が高いです。

また、加工する工程で、肉や魚などの骨の欠片などが入る場合も該当します。

下表は、金属片や樹脂片、骨などの硬質なものの異物混入の一例です。


糸くずやビニール片など軟質なもの

従業員の衣服に付着した糸くずや、材料を包装する袋の切れ端など、軟質な異物は、硬質な破片と比べれば健康被害をおよぼす可能性は低いです。

しかし、顧客に食品への不安を与え、衛生管理への不信感を抱かせるでしょう。

下表は、糸くずやビニール片など軟質なものの異物混入の一例です。


人に由来するもの

頭髪や体毛、爪、ばんそうこうなど、人に由来する異物が混入する場合もあります。

爪やつけ爪などの固い物質ならば、健康被害が出るかもしれません。頭髪や体毛などは柔らかいため健康被害が出る可能性は低いですが、混入すれば心理的抵抗を感じさせます。

下表は、人に由来するものの異物混入の一例です。


カビや細菌、ウイルスなどの有害物質

材料や使用器具にカビが発生したり、細菌・ウイルスなどが製造過程で付着したりして、有害な物質が混入すると、食中毒につながり、大きな被害・損失を出す可能性が高いです。そのため、衛生管理を徹底して防ぐべき事案です。

下表は、カビや細菌、ウイルスなどの有害物質の異物混入の一例です。


入るべきではない食材や添加物

製造加工の過程で、本来入るべきではない食材や添加物、薬品が混入するケースもあります。混入した異物によっては、重大な健康被害をおよぼす可能性があるため、製造者は気を付けなければなりません。

下表は、入るべきではない食材や添加物の異物混入の一例です。



食品工場や飲食店で起こる異物混入の原因

食品工場や飲食店で異物混入が発生する主な原因は次のとおりです。

  • 害虫や害獣の侵入
  • 使用器具や厨房設備・施設の不具合
  • 不十分な衛生管理
  • 従業員の不注意

複数の原因が重なって異物混入を招くケースもあるため注意しましょう。


害虫や害獣の侵入

害虫や害獣は動物であるため、隙間や亀裂から侵入する恐れがあります。飛んでくる虫、歩いてくる虫の他、何かに付着して侵入するケースもあるため注意が必要です。

侵入した害虫・害獣は作業場内に住み着き、繁殖する恐れのある存在です。侵入を見つけた場合は、早急に対策しましょう。


使用器具や厨房設備・施設の不具合

老朽化した設備が破損して生じた欠片や、使用器具の不具合で外れた部品が異物として混入するケースも存在します。また、作業場内の掲示物が劣化して異物混入が発生する場合もあるため注意しましょう。

フィルターの劣化は害虫・害獣の侵入につながる可能性があり、作業場の設備が不十分な状態だと、見落としや手順の誤りから混入を誘発するケースも考えられます。

食品を加工する場所や使用器具は定期的にチェックし、不具合が見つかった場合は対処してください。


不十分な衛生管理

害虫・害獣の侵入対策不足や設備の不具合の放置など、衛生管理が不十分で異物混入を招くケースもあります。作業場に入る時の服装や手洗い、消毒などのルールがないと、従業員が異物を持ち込む可能性があるため注意してください。

食品を扱う場所では衛生管理のルールを明確にし、従業員への周知を徹底しましょう。


従業員の不注意

侵入対策や設備の点検、衛生管理を実施していても、従業員の不注意から異物が混入するケースも考えられます。例えば、持ち込みルールを守らない、指定の作業着を着用しない、器具を正しく使わないなどのケースが考えられます。

従業員に研修や指導を実施して、ルールを守る体制が必要です。



食品工場や飲食店における異物混入対策

異物混入への対策には、異物を持ち込まない・発生させないが基本です。食品工場や飲食店で取るべき対策を下記で詳しく解説します。

  • 出入口や窓、換気口からの害虫・害獣侵入を防ぐ
  • 衛生レベルに応じてエリア分けする
  • 異物の見落としや材料の誤使用を防ぐ環境を整える
  • 異物を持ち込まない・不良品を流出させないための装置や検知する装置を導入する
  • 施設内の点検・清掃・メンテナンスを強化する
  • 信頼できる事業者から材料を仕入れる
  • 作業時のユニフォームや身だしなみ、入場時のルールを決める
  • 衛生管理ルールを明確化して従業員に周知・徹底する

出入口や窓、換気口からの害虫・害獣侵入を防ぐ

害虫・害獣は開口部から侵入するため、隙間を作らずに出入口や窓は素早く開け閉めしましょう。光に集まる虫を誘引しないため、紫外線カットフィルムを使うのも効果的です。

換気用の開口部は侵入防止のフィルターを設置して、害虫・害獣をシャットアウトします。また、定期的にチェックして、穴や破れを見つければ速やかに修繕しましょう。


衛生レベルに応じてエリア分けする

衛生レベルに応じて事業所内を清潔区域と汚染区域に分け、直接接触しない環境作りも異物混入の対策として実施すべきです。

清潔区域とは、菌や汚れなど持ち込みを防ぎ、衛生管理に細心の注意を払う区域です。例えば、盛り付けや包装作業を行う場所、殺菌後の保管庫などが該当します。

汚染区域とは、外部との接触があり、菌や汚れなどの汚染を受ける区域です。例えば、原材料の保管庫や出荷室、下処理室などが該当します。

汚染区域から清潔区域へ移動する際は、菌や外部の汚れなどを持ち込まないため、除去設備を通って異物混入を防ぎます。


異物の見落としや材料の誤使用を防ぐ環境を整える

異物混入の見落としや、材料混在による誤使用が起きない環境作りも大切です。

作業場は必要な人員・照度を確保し、手違いがあればすぐに発見できる体制を整えましょう。誤使用を誘発する置き方をしている場合は改善し、間違いやすい場所に置かない、違いをわかりやすくするなど対策します。


異物を持ち込まない・不良品を流出させないための装置や検知する装置を導入する

作業場に異物を持ち込まないための装置や検知器、異物を市場流出させない検知器の導入も有効な手段です。

衣服に付いた毛髪やホコリなどを取り除く吸引機などを設置し、入場前の使用を義務付ければ、従業員に付着した異物の持ち込みを防げます。

また、専用の検知装置を使えば、商品に異物が混入していないかチェックできます。目視点検よりも効果が高く、見落とし防止に有効です。

製造する商品の内容や工程に適した機器の導入を検討しましょう。


施設内の点検・清掃・メンテナンスを強化する

清掃は十分に行われているか、機械などに不具合がないか確認するなどの体制強化も、異物混入への対策に効果的です。不備が見つかった場合は素早く対処し、異物混入を未然に防ぎましょう。

害虫・害獣の侵入を見つけた場合は早急に駆除するとともに、住み着かないよう清掃を徹底してください。


信頼できる事業者から材料を仕入れる

製造や加工の過程ではなく、食品の原材料に付着した異物が混入するケースも存在します。

材料を仕入れる際は入荷前に相手先の生産・保管体制を確認し、信頼できる事業者と取り引きしましょう。


作業時のユニフォームや身だしなみ、入場時のルールを決める

従業員に由来する異物混入を防ぐには、所定の作業着や身だしなみ、入場時のルールを設定した制限が必要です。作業に必要のない物品の持ち込みは、異物混入を招くため制限しましょう。

体調の悪い従業員が病原菌を持ち込む可能性や、手指の傷が原因で発生する異物混入も存在します。従業員の体調不良や傷の有無などにも注意し、細菌・異物などの混入につながる状態ならば作業から外すなどのルールを設定してください。


衛生管理ルールを明確化して従業員に周知・徹底する

各種対策を講じても、ルールが不明確だったり従業員に周知されなかったりすると意味がありません。

衛生管理ルールは明確にし、従業員に周知徹底しましょう。くり返し伝え、異物混入を防止する意識を高めることも重要です。



異物混入対策に関する最新の情報収集は「食品衛生イノベーション展」へ

異物混入の原因を理解して発生を防ぐには、まず対策に関する最新の情報収集を行う必要があります。インターネット上の情報では不十分な場合もあるため、より詳しい情報を得るために「食品衛生イノベーション展」へ足を運んではいかがでしょうか。

食品衛生イノベーション展は、異物混入対策やHACCP、衛生管理に関する商材・サービスを扱う企業が多数出展する展示会です。

会場では、「異物混入をなくしたい」「製造現場の衛生管理を強化したい」などのニーズを満たす出展企業との商談や技術相談はもちろん、比較検討や見積もりなどが可能です。設備の導入やリプレースを検討している方はぜひご来場ください。

また、食品衛生に関わる商材を扱う企業は、出展すると新規リードの獲得につながります。

食品衛生イノベーション展の詳細は下記のとおりです。

食品衛生イノベーション展 東京
2024年11月20日(水)~22日(金)開催

来場も出展もメリットがある展示会なので、食品業界の異物混入や衛生管理について関心がある方は、ぜひご来場ください。



食品の安心・安全を守るために異物混入対策の徹底を

異物混入は口にした人の健康を損なうだけでなく、心理的なダメージも与え、商品への不信感にもつながる事象です。

2021年6月からは、HACCPにそった衛生管理も制度化されているため、食品を扱う事業者は、異物混入対策も含めた衛生管理を徹底しましょう。

対策には、異物を持ち込まないための装置や異物を検出する機器の導入も有効です。食品衛生イノベーション展では、異物混入の対策に関連した企業も出展するため、ぜひご来場ください。



▶監修:門脇 一彦(かどわき かずひこ)

岡山商科大学経営学部教授、キャリアセンター長
國學院大學経済学部兼任講師
1959年大阪市生まれ。神戸大学経営学研究科博士後期課程、博士(経営学)。大手空調企業で機器開発及び業務改革を実践後、ITコンサルタントを担い現在に至る。2021年より現職。経営戦略、技術管理、IT活用、医療サービスマネジメントなどを研究。



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