インバウンド対策のポイントとは?課題や飲食店経営を成功に導く方法を解説

近年、日本を旅行する訪日外国人、いわゆるインバウンド客が増えており、観光業をはじめ、様々な業種でインバウンド需要が急速に高まっています。なかでも、日本食は外国人からの興味・関心が高く、飲食店でのインバウンド対策が急がれています。

しかし、「インバウンド対策として何に取り組むべきか」を悩んでいる飲食店経営者も多いのではないでしょうか。

本記事では、インバウンド対策が急がれている背景や、メリット・課題、飲食店に有効なインバウンド対策のポイントを具体的に紹介します。




インバウンド対策が飲食店で急がれる背景

そもそも「インバウンド(inbound)」とは外国から日本へ旅行することで、一般的には「訪日外国人旅行」を意味します。

近年、インバウンド客の増加に伴い、インバウンド需要(インバウンド客が日本国内で旅行中に、様々な商品やサービスを消費する需要)が高まっています。インバウンド需要に応えるためには、観光業や小売業にとどまらず、飲食業でも対策が急務とされています。

以下で、インバウンド対策が飲食店でも急がれる背景を詳しく紹介します。


① インバウンド消費の増加

現在、物価高や少子高齢化などの影響から、日本の国内消費は減少傾向が続いています。そのため、今後、飲食店経営で業績を拡大するには日本人だけではなく、訪日外国人をターゲットに含めた対策が重要です。

政府は観光立国の復活に向けて、2019年に一人あたり15.9万円だったインバウンド客の消費額を、2025年までに一人あたり20万円とする目標を掲げています。訪日外国人旅行消費額全体としては、2025年では5兆円、2030年では15兆円を目標としています。

また、実現に向けて観光の「質」向上を目指しており、地方への誘致や国内での交流拡大などに取り組んでいる状況です。

こうした国の後押しもあり、都心や観光地に限らず、全国の様々な飲食店でインバウンド消費がさらに増えるものと予想されます。


② 日本食に対する人気の高まり

2013年にユネスコ無形文化遺産に登録されて以来、「和食」は世界的なブームとなっています。今では、和食の概念を飛び越えて、ラーメン、焼き鳥、B級グルメ、地方でしか食べられない郷土料理など、クオリティの高い日本食そのものに、多くの外国人が注目しています。

実際、観光庁の調査では、外国人が日本での観光に期待することとして、最も挙げているのが「日本食を食べること」です。また、2024年時点、インバウンド客一人あたりの旅行支出額22.7万円のうち、宿泊費、買い物代に次いで、飲食費は3番目となっています



飲食店でインバウンド対策をするメリット

飲食店でのインバウンド対策が経営上のメリットとなる理由には、以下のようなものがあります。

  • 国内客の需要減少をカバーできる
  • 観光シーズンに頼らずに需要を維持できる

それぞれの理由を詳しく解説します。


国内客の需要減少をカバーできる

前述のとおり、日本では少子高齢化が進んでおり、人口の減少によって国内客の消費は先細りが予測される状況です。そのため、経営努力やライバル店との競争だけでは、飲食店が売上の維持やアップを目指すことが困難になる可能性も予想されます。

しかし、積極的なインバウンド対策でインバウンド客が来店しやすい環境を整えることで、売上が増加し、国内客の需要減少をカバーできると期待されます。


観光シーズンに頼らずに需要を維持できる

観光地では、飲食店の売上がゴールデンウィークなどの観光シーズンに集中し、閑散期の売上が経営課題となることが珍しくありません。

しかし、海外では中国をはじめとするアジアの春節(1月下旬~2月)、欧米のバケーション(8月)、アメリカのサンクスギビングデーの連休(11月下旬)など、観光シーズンは国により様々です。

そのため、インバウンド対策によってインバウンド客が増えれば、1年を通じて安定した需要を保てると期待されます。



飲食店が抱えるインバウンド対策に関する課題

インバウンド対策が必要だと考えている飲食店で、インバウンド客への対応において、主に以下のような課題を抱えています。

  • 多言語への対応
  • キャッシュレス決済の取り扱い

それぞれ解説します。


多言語への対応

英語が通じない、あるいは英語以外の言語に対応できないなど、多言語への対応に頭を悩ませる飲食店は少なくありません。

しかし、多言語への対応を怠ると、コミュニケーションを円滑に進めることができず、インバウンド客の顧客満足度が低下するおそれがあります。さらに、言語の壁が新規顧客獲得の機会損失につながる可能性も否定できません。


キャッシュレス決済の取り扱い

都心部を中心に、多様なキャッシュレス決済に対応する飲食店が増えていますが、依然として日本のキャッシュレス決済への対応は飲食店によりバラつきが見られる傾向です。

2022年時点のキャッシュレス決済の普及率は、日本では36%にとどまっています。一方、海外ではクレジットカードを中心にキャッシュレス決済の普及が進んでおり、韓国はほぼ100%、中国は約84%、オーストラリアは約76%と高い普及率を示しています※1

2024年には、日本の普及率は約42%に達し、徐々にキャッシュレス化が進んでいますが、キャッシュレス決済が当たり前の選択肢となるインバウンド客には不十分な状態でしょう※2。結果として、キャッシュレス決済の取り扱いがない場合は、飲食店への不満につながるおそれもあります。



飲食店のインバウンド対策を成功させるポイント

飲食店のインバウンド対策として有効な方法に、以下のようなものが挙げられます。

 ① SNSを運用する
 ② 店頭のPOPやメニューの内容を工夫する
 ③ インバウンド客向けのメニューを開発する
 ④ 日本特有の食文化を可視化する
 ⑤ キャッシュレス決済に対応する
 ⑥ Wi-Fi環境を整えておく

成功させるポイントとともに、それぞれの対策を具体的に紹介します。


① SNSを運用する

インバウンド客は、「Instagram(インスタグラム)」や「X(エックス)」などのSNSを通じて、飲食店の情報を得る機会が多い傾向です。そのため、インバウンド客を歓迎する飲食店であることをSNSで発信することで、大きな手間や負担をかけずに、集客につなげられると期待されます。

SNSでは、英語のメニューを用意している、英語を話せるスタッフがいる、キャッシュレス決済に対応している、投稿文は日本語と英語を併記するなど、インバウンド客が来店しやすいと感じる内容を投稿すると良いでしょう。

飲食店経営に役立つインスタの運用方法についてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。


② 店頭のPOPやメニューの内容を工夫する

日本人には当たり前の知識も、異なる文化や習慣を持つインバウンド客にはわかりにくい、理解できないなどの状況は往々にしてあります。

飲食店でも、はじめて目にする料理の味、提供される量、生食か加熱済みか、フルサービスかセルフサービスかなど、日本人には思い当たらない理由が、外国人の入店へのハードルを上げている可能性があります。

そうした外国人の不安や懸念を取り除く方法として、店頭のPOPやメニューへの工夫がおすすめです。写真やイラスト、英語や中国語などを使い、インバウンド客にもひと目で伝わるように心がけましょう。

また、国や宗教、信条の違いから、口にできない食材が使われているかどうかを重視する外国人も一定数存在するため、メニュー提供後のトラブルを避けるためにも、使用食材やベジタリアン・ヴィーガン対応、ハラール対応などを明確にすることも重要です。


③ インバウンド客向けのメニューを開発する

インバウンド客を積極的に呼び込みたいなら、外国人の好みにあわせた新しいメニューの開発もインバウンド対策として有効です。

例えば、日本らしいテイストを強調したもの、外国人が親しみやすい味覚を取り入れたもの、ベジタリアン向けに野菜だけを使ったものなど、インバウンド客が「食べてみたい」と思うメニューを考えましょう。

また、限られた日程で旅行するインバウンド客が、日本食を効率良く楽しめるように、食べ歩きに適したテイクアウトメニューの開発もおすすめです。


④ 日本特有の食文化を可視化する

日本を訪れて、日本特有の食文化にはじめて触れる外国人も多いでしょう。インバウンド客に日本食への理解を深めてもらい、食を通じたすばらしい体験としてもらえるように、写真やイラスト、短い文章を使った簡単なガイドを用意しましょう。

日本特有の食文化として代表的なのは、お通しの仕組み、席料やサービス料の発生、レジでの支払いなどが挙げられます。とくに、お通しに関しては、オーダーしていないのに料金が発生したとして、インバウンド客とのトラブルになる原因にもなりやすいため、わかりやすい説明が必要です。


⑤ キャッシュレス決済に対応する

現金での支払いは、日本円に不慣れなインバウンド客にとってはわずらわしく、さらに自国ではキャッシュレス決済を中心に生活していることも多いため、飲食店での不満のタネになりやすいでしょう。インバウンド客のなかには、現金にしか対応しない飲食店を避ける人もいるかもしれません。

クレジットカードなどのキャッシュレス決済に対応していれば、支払方法による顧客満足度の低下や機会損失を防ぐことができるでしょう。

レジでのオペレーションを含む、飲食店の業務効率化や便利なツールなどについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。


⑥ Wi-Fi環境を整えておく

日本を旅行中、スマホやタブレットを使うために、インバウンド客の多くがフリーWi-Fiスポットを積極的に利用しています。飲食店のWi-Fi環境が整っていれば、入店するきっかけのひとつとなる可能性が高まるでしょう。

また、飲食店にWi-Fi環境があると、料理の感想や写真、経験などをSNSにアップする行動にもつながりやすいとされています。インバウンド客によるSNS発信が、飲食店の効果的な宣伝となるとともに、訪日外国人の集客促進にも寄与すると考えられます。

一部では、近年ポケット型Wi-Fiやローミングサービスの低価格化が進んでおり、フリーWi-Fiの重要度はそこまで高くないとの指摘もあります。それでも、フリーWi-Fiを提供する店舗をインバウンド客が選ぶ可能性は高く、ライバル店との差別化としての役割も果たすでしょう。



インバウンド対策に役立つITツール

スタッフの語学力や努力だけに頼った属人的なインバウンド対策は、スタッフにかかる負担が大きく、持続可能な対策とはいえません。インバウンド対策を成功させるには、誰が対応しても、いつでも均一なクオリティを維持することが大切です。そこで役立つのが、以下のようなITツールです。

 ① POSシステム
 ② セルフオーダーシステム
 ③ オンライン予約システム

飲食店のインバウンド対策に役立つ、それぞれのITツールの特徴を紹介します。


① POSシステム

POSシステムとは、一般的なレジ機能に加え、販売データの記録や分析を行えるITツールです。会計処理の他、日々の売上や在庫管理などにも利用できるため、飲食店経営に役立つアイテムとして知られています。

さらに、POSシステムは、クレジットカードをはじめ、外国でメジャーなキャッシュレス決済を幅広く扱えるため、インバウンド客へのスムーズな支払い対応をサポートします。多言語に対応する製品もあるため、自店の戦略にあわせて導入ツールを選ぶと良いでしょう。

また、従来のレジよりも操作性が高く、会計処理にかかる手間や時間を軽減するため、飲食店のスタッフにかかる負担や人的ミスを軽減できると期待されます。

最近は、顧客自身が会計操作を行う「セルフ会計」や、支払い操作だけをセルフ化した「セミセルフ会計」を可能とするPOSシステムも増えています。インバウンド客とのレジでのやりとりに時間がかかり、スタッフの負担につながっているようなら、セルフ会計やセミセルフ会計のPOSシステム導入を検討するのがおすすめです。

POSレジやPOSシステムの機能についてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。


② セルフオーダーシステム

セルフオーダーシステムとは、タブレットなどを通じて、顧客自身がメニューを注文できるシステムのことです。

メニューの受発注にスタッフを介する必要がないため、インバウンド客と言語によるコミュニケーションが困難な時にも役立ちます。インバウンド客にとっても、食べたい料理を気軽にオーダーできるメリットがあります。

また、多くのセルフオーダーシステムが多言語に対応しており、メニューの画像や使われている食材(アレルギーや宗教上、ライフスタイル上で制限のある食材)の情報などの提供が可能です。システムによる受発注による人的ミスも減らせるため、インバウンド客との注文トラブルを回避できるでしょう。


③ オンライン予約システム

インバウンド客を対象に実施された農林水産省によるアンケートによると、日本での旅行中、飲食店を事前予約する外国人は少数との結果が出ています。飲食店の予約で旅行日程に制約を加えたくないのが主な理由ですが、予約したくても外国語に対応する飲食店が少ないことも原因のひとつとされています。

このような言語の壁を原因とした機会損失を防ぐITツールが、オンライン予約システムです。スマホなどを使ったオンラインによる予約受付と予約管理を可能とするもので、オンラインによる24時間の自動予約受付が可能となり、飲食店の営業時間外でも予約に対応できるようになります。

多言語に対応する製品も増えてきており、インバウンド対策としても活用できるでしょう。インバウンド客は、母国語や慣れ親しんだ言語でオンライン予約や予約確認を行えるため、予約できない、満席で入店できないといった不満も解消されます。

飲食店側も、外国語での予約確認やリマインドが不要となり、予約時のコミュニケーションでストレスを抱える心配がありません。

飲食店への予約管理アプリの導入を検討している方は、以下の記事もあわせてご覧ください。



飲食店でインバウンド対策を成功させたいなら「飲食業界イノベーションWeek」へ

観光立国の復権を目指す政府の取り組みもあり、インバウンド客の数は年々増加しています。日本食への強い関心から飲食店でのインバウンド対策も急がれている状況です。近年は地方に足を延ばす外国人も増えており、立地に関わらず、積極的なインバウンド対策で集客力を高められる可能性があります。

飲食店の経営や店舗運営に関わる方で、インバウンド対策に関連する製品やサービスに興味があるなら、ぜひ「飲食業界イノベーションWeek」にご来場ください。「飲食業界イノベーションWeek」は、飲食店が抱える幅広い悩みや課題を解決するためのITツールやデジタルサービスを実際に体験しながら比較検討できる展示会です。

多彩な製品やサービス、デジタル技術に直接触れられ、チェーン店や個人店、小売店、ホテルなど業態を問わず、インバウンド対策につながるヒントと出会えるでしょう。また、飲食業界に特化した展示会のため、ニーズにあう製品・サービス・デジタル技術に一度で数多く出会える点も魅力です。さらに、会場で行われるセミナーでは他社事例や最新の業界トレンドなどの動向も学べます。

展示会へは、事前登録をすれば、同時開催展も含めて無料で入場可能です。

また、出展側として参加することもできるため、自社製品の認知度向上や他社とつながる機会としても活用いただけます。来場者と直接対話すことができ、具体的な商談につなげられるため、ぜひ出展をご検討ください。

◾️飲食業界イノベーションWeek
  会期:2025年12月3日(水)~5日(金)
  会場:幕張メッセ

詳細はこちら



インバウンド対策を通じて集客力を高め、売上アップを目指そう

インバウンド客は今後も増加が見込まれており、少子高齢化で需要の先細りが懸念される飲食店にとっては、重要な潜在顧客になると考えられます。

売上や集客の維持・拡大を目指すなら、SNSの運用、写真やイラストを活用したわかりやすいメニュー表記などのインバウンド対策を積極的に実施して、言語や文化、食習慣の違う訪日外国人に対する受け入れ態勢を整えることが大切です。

飲食店でのインバウンド対策を成功させるには、飲食業界の動向、最新の技術やサービスを把握しておくことも大切です。インバウンド対策を具体化するアイデアを探しているなら、「飲食業界イノベーションWeek」にぜひご来場ください。来場者として最新のITツールや業界の動向などに直接触れられる他、出展者として関連企業と商談する機会として双方にメリットがあります。

◾️飲食業界イノベーションWeek
  会期:2025年12月3日(水)~5日(金)
  会場:幕張メッセ

詳細はこちら



▶監修:宮崎 政喜(みやざき まさき)

エムズファクトリー合同会社 代表 / 料理人兼フードコンサルタント

出身は岐阜県、10代続く農家のせがれとして生まれ、現在東京在住。プロの料理人であり食品加工のスペシャリスト。また中小企業への経営指導、食の専門家講師も務めるフードコンサルタントでもある。飲食店舗・加工施設の開業支援は200店舗以上。料理人としてはイタリアトスカーナ州2星店『ristorante DA CAINO』出身。昨今、市町村や各機関からの依頼にて道の駅やアンテナショップも数多く手掛ける。今まで開発してきた食品は1000品目を越え、商品企画、レシピ開発、製造指導、販路開拓まで支援を日々実施している。



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