5S活動の目的と期待できる成果は?進め方や成功事例も解説
5S活動とは、業務効率の改善や生産性向上を目指す基本的な取り組みです。食品製造業をはじめとした製造業やサービス業など、様々な業種で取り入れられています。
形だけの活動で終わらせず、従業員に定着させて効果を出すためには、5S活動への深い理解とポイントを押さえた進め方が重要です。
本記事では、5S活動の内容や目的、見込める成果、進め方などを解説します。食品企業の取り組み事例も紹介するため、ぜひ参考にしてください。
5S活動とは
5S活動とは、職場環境を整備し、業務効率の改善や生産性の向上を目的とする取り組みです。「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」の5つのSを基本原則として実践します。
これらの活動を通じて、作業効率の向上、品質の安定、安全性の確保、コスト削減、従業員のモチベーション向上など、様々な成果が期待できます。
5S活動を効果的に進めるためには、継続して改善が回り続ける仕組みの構築が重要です。
整理|不要なものの処分や片付けをする
整理とは、職場で必要なものと不要なものを分類し、不要なものは処分や片付けをする作業です。無駄を減らすことで、その分だけ業務効率を高めることができます。
整理では何を「必要なもの」とするかルールを決めて周知し、保管する場所や在庫すべき量を定めることが大切です。
整頓|原料や資材の置き方を工夫して配置する
整頓とは、必要なものをすぐ使えるよう、決められた場所に適切な量を配置・管理することです。必要なものは、使用頻度や業務フローにあわせて配置することで、誰もが使いやすい環境を整えることができます。
整頓は「探しやすい」ための工夫に留まりません。例えば、食品工場で整頓ができておらず、アレルゲンを含む原料や加熱前と加熱後の製品が近接して保管されると、交差汚染のリスクが高まります。整頓は「安全に製造できる動線設計」にも直結する重要な取り組みです。
さらに、整頓は安全性だけでなく効率性の向上にも効果をもたらします。大手文具メーカーの調査によると、週に5日以上書類を探すオフィスワーカーは、1日たり約20分を書類探しに費やしており、年間に換算すると約80時間にも及びます。この調査結果から、整頓が業務時間の短縮や効率アップに直接つながることがわかります。
清掃|常に清潔な状態を保つ
清掃とは、日々の掃除を通じて職場や設備を常にきれいに保ち、異常に気付きやすくする取り組みをさします。整理・整頓が実践されてはじめて、清掃の効果が十分に発揮される点が特徴です。
清掃を徹底することで、職場環境がきれいになるだけでなく、設備の不具合や異常、潜在的な問題点を早期に発見しやすくなります。
また、清潔の徹底度合いは、そのまま監査での評価に大きく影響します。マニュアル化とチェックリスト運用を徹底し、「属人化」を避けることが重要です。こうした仕組みがあれば、誰が作業しても一定レベルの清潔さを維持できます。
さらに、整理・整頓・清掃の3つを組みあわせて、「3S活動」と呼ばれる取り組みもあり、基盤づくりの一環として活用されています。
清潔|整理・整頓・清掃の状態を維持する
清潔とは「整理・整頓・清掃」で整えた状態を標準化し、継持することをさします。清潔の取り組みでは、定期的に整理・整頓・清掃の状態を見直し、改善を続ける姿勢が大切です。
清潔な環境を標準化するには、作業のマニュアル化が有効です。マニュアルがあれば、作業者が変わっても一定の水準を確保できるため、清潔さを安定的に維持できます。
清潔な状態が維持された職場では、事故を未然に防ぎ、安全性を確保できるメというリットがあります。
しつけ|5Sのルールを習慣化し、継続的に実践する
5S活動の「しつけ」とは、職場で定めたルールや手順、マナーを守る習慣が従業員に定着している状態をつくることです。しつけには、あいさつや言葉遣いなどの基本的なマナーも含まれます。
5S活動は、一部の従業員だけが行うのではなく、職場全体で実践することで効果を発揮します。こうした継続的な取り組みを支える要素として、「しつけ」が位置付けられています。
しつけは、従業員が自らルールを守り、5Sの取り組みを自律的に継続できるようにするたえの最終段階です。
5S活動の目的と期待できる成果
5S活動の目的と期待できる成果は、以下の5つです。
- 業務の効率化
- 生産性の向上
- 安全性の確保
- 従業員のモチベーション向上
- 企業イメージの向上
5S活動は、目的を組織全体で共有し、意識して実践するなかで成果が得られます。
業務の効率化
整理・整頓によってものを探す時間が削減されれば、業務は効率化します。不必要なもので溢れていたり、一部の従業員にしか保管場所がわからなかったりしていては、ことあるごとに業務の進行が止まってしまいます。
また、ものが散乱している状態では設備の不具合や異常の発見が遅れ、修理に余分な時間がかかる可能性を否定できません。
例えば、食品工場では整理・整頓が不十分だと原料や資材の先入れ先出し(FIFO)が徹底できず、賞味期限切れや廃棄ロスを生むことがあります。5S活動を徹底するだけで、「廃棄削減=コスト削減」につながり、利益改善に直結するでしょう。
業務の効率化は経費や人件費の適正化にもつながり、幅広いコスト削減のメリットが得られます。
食品工場の課題解決や効果的な取り組みについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
生産性の向上
5S活動の実施で業務が効率化すると、作業スピードも上がるため生産性が向上します。また、清掃・整理によって異常や不具合を早期に発見できる職場では、不良品の発生が抑えられるため、製品やサービスの品質が安定します。
さらに、不良品や異物の混入などのアクシデントを未然に防ぐことで、クレームの発生を抑制することが可能です。生産性の向上は、顧客満足度の向上だけでなく、従業員が働きやすい環境づくりにもつながります。
安全性の確保
5S活動によって整った職場は、事故リスクを低減できます。雑然とした場所では、思わぬ事故が発生するリスクが高まり危険です。例えば、通路が狭いと接触事故が起きやすくなり、棚にものが積み上がりすぎていると崩落事故につながる可能性があります。
製造業や建設関係の現場などでは、特に作業環境の安全を確保することが不可欠です。5S活動により整理整頓された環境を維持することで、事故や怪我のリスクを減らし、安全な作業環境を構築できます。
食品工場での安全対策についてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
従業員のモチベーション向上
整理整頓されたきれいな職場は、従業員が日々の業務で感じるストレスを減らし、モチベーションを向上させます。さらに、快適な環境は集中力も高まるため、業務効率も上がるでしょう。
5S活動の重要性が社内に浸透すれば、自主的に取り組む従業員も増え、組織全体での好循環が生まれます。5S活動は基本的に全員参加型の取り組みであるため、組織内のコミュニケーションが活発になり協力体制が強化されます。
従業員のモチベーションが向上すれば、結果として離職率の低下にもつながるでしょう。
企業イメージの向上
5S活動によって業務上の不具合やムラが減ることで、安定した商品やサービスの供給が実現し、顧客の満足度や企業イメージが向上します。
きれいな現場は顧客や取引先が訪問した際に信頼感を高めるため、良好な関係構築にも有効です。また、社内外に良い印象を与えられる企業は、採用活動がしやすくなるため、優秀な人材の確保につながる可能性があります。
例えば、食品工場では監査や取引先の工場視察が頻繁にあります。5Sが徹底されている現場は、「この会社なら安心して任せられる」と強い信頼を獲得できます。実際に、大手小売チェーンや外食企業の監査担当者は、工場の整理整頓状況を「品質保証レベルのバロメーター」として評価しています。
5S活動によるパフォーマンスの好循環は、企業イメージやブランド価値の向上など、様々な面でポジティブな作用をもたらします。
5S活動の進め方
5S活動の具体的な進め方は、以下のとおりです。
- 目的と方針の共有
- 現状把握
- 計画の策定と実践
- 見直しと改善
進め方を把握して、5S活動をただのスローガンとして終わらせず、効果のある取り組みにしましょう。
目的と方針の共有
5S活動を具体的に進めるためには、まず「なぜ取り組むのか」との目的や方針の共有が欠かせません。目的や最終目標を経営層だけでなく各部署の代表も交えて協議し、組織としての方向性を明確にした上で従業員に伝えることが大切です。
活動の必要性を従業員に理解してもらうためには、「安全性が高まる」「業務効率が上がって働きやすくなる」など、具体的な効果を説明すると良いでしょう。
例えば、食品工場では単なる「整理整頓で効率化」だけではなく、「アレルゲンの交差混入防止」「異物混入ゼロ」「作業者の安全確保」など、食品工場ならではのリスクと直結させた目的を共有することが大切です。
現場スタッフにとっては「なぜ掃除を徹底するのか」が、自分たちの仕事の安全性と会社の信用に直結していると理解できた時、はじめて本気で取り組めるようになります。
また、従業員に意見を募ったり、事例を動画で紹介したりして、目的と方針がイメージしやすくなる取り組みも有効です。
5S活動が「単なる職場の掃除」と受け取られてしまわないよう、目的と方針を共通認識として浸透させながら進めましょう。
現状把握
5S活動を自社の改善に役立てるためには、現段階における業務の可視化が必須です。5Sの最初のステップである整理・整頓を進める際も、まずは必要なものと不要なものを明確にし、分けることからはじめる必要があります。
現状把握では、誰が見ても仕事の流れが理解できるように図や表などを活用して表現すると効果的です。可視化によって業務の全体像が把握できると、問題点や改善点が見つけやすくなります。
現場を可視化する際、食品工場では特に「原材料・資材の滞留」「冷蔵・冷凍庫内の在庫管理」「ライン清掃の時間ロス」がボトルネックになりがちです。
例えば、冷蔵庫に「いつ搬入された原料かが一目でわからない」状態は大きなリスクですが、ラベルや色分けを徹底して先入れ先出し(FIFO)を仕組み化するだけで、食品ロス削減や監査対応強化に直結します。
現状をありのまま把握すれば、目標としている将来像とのギャップが明らかになり、改善の判断基準や具体的な実践項目も明確になっていきます。
計画の策定と実践
現状把握を終えたら、改善すべき点や調整が必要な部分を取り入れたルールや実践計画を策定します。
計画の段階で重要なのは、整理・整頓・清掃はどのチームがどの場所を担当するのか、いつまでに行うのかなどを明確に定めることです。進捗や達成度を確認するため、チェックシートを用意するのも有効です。
また、ルール策定の際には、現場で働いている従業員の意見を取り入れましょう。実際に業務に携わる人の声を反映すれば、現実的で実践しやすいルールになります。
計画がまとまったら社内で共有し、ルールに沿って実践をはじめます。活動に取り組む前と後の状況を写真やテキストで記録し比較すると、改善の成果を実感しやすく、従業員のモチベーション向上にもつながるでしょう。
見直しと改善
5S活動では、一度決めたルールをただ遵守するのではなく、見直しと改善を繰り返して最適化していくことが重要です。定期的に振り返りを行い、必要に応じてルールや手順を修正することで、活動が形骸化せずに効果を維持できます。
部署ごとに担当者やリーダーを設定するのも有効な方法です。責任を持つ人を配置すれば、それぞれの現場に当事者意識が生まれ、見直しと改善のサイクルが回りやすくなります。
5S活動の担当者を決めたら、現状や進捗がわかるようにレポートなどで共有しましょう。情報をオープンにすれば組織全体で課題を共有でき、改善のスピードも上がります。
見直しと改善の繰り返しが、5S活動を定着させ、長期的な成果を生み出すためのポイントです。
5S活動の成功事例
5S活動の具体的な効果を理解するために、ある食品企業の事例を紹介します。実際の取り組みを知って、自社で活動を進める際の参考にしてください。
ある食品企業では、「生産性の向上」を目指して5S活動を推進しました。業務時間内に「5Sの時間を」定期的に設け、まずは2S(整理・整頓)活動から行いました。2S活動から取り組むことで、5S活動の取り組みを習慣化させ、職場全体が一体となり取り組みを推進しました。
また、工場では5S基盤として日々衛生管理を徹底しています。
5S活動を続けるうちに、業務効率は改善し顧客満足度が向上しました。さらに、従業員一人ひとりが自分の時間を確保できるようになり、会社全体の業務に対する意識改革へとつながっています。
従業員からは「業務効率が上がった」「職場の一体感が高まった」などの声が寄せられ、活動の成果が日常業務のなかで実感されています。
この例のように、5S活動は単なる職場環境の改善にとどまらず、顧客満足の向上や従業員の意識の変革など、幅広い効果を生み出す取り組みです。
食品業界における5S活動の推進に役立つ情報を集めるなら「食品工場Week(旧:フードテックWeek)」へ
5S活動の推進に役立つ情報を集めたいなら、「食品工場Week(旧:フードテックWeek)」へご来場ください。食品工場Week(旧:フードテックWeek)は、食品工場の課題を解決するための最新技術・サービス・情報が一堂に集まる展示会です。
食品工場Week内で開催する「食品工場の安全対策・環境改善フェア」では、作業環境の改善を支援する製品・サービスが出展する他、関連セミナーも併催されます。職場環境の改善につながる具体的な事例や5S活動推進のヒントを知ることができるため、情報収集を行う絶好の機会です。
なお、展示会は事前登録を行えば、無料でご入場いただけます。
また、関連サービスや製品を扱う企業であれば、出展側でのご参加も可能です。自社製品の認知度向上の場として活用できるだけでなく、食品メーカーの工場関係者と直接つながる機会として活用できます。具体的な商談の実現やリード案件獲得につながる可能性も高いため、ぜひ出展もご検討ください。
5S活動を通じて職場環境の改善を進めよう
5S活動は、職場環境の改善を目指す企業にとって、比較的取り組みやすい活動です。小さな改善からはじめられるため、業種や規模を問わずに導入しやすいでしょう。
5S活動の推進は、安全性の向上や従業員のモチベーションアップにつながり、結果として顧客満足度や企業イメージの向上にも寄与します。ただし、5S活動は短期間で劇的な効果が出るものではないため、将来を見据えながら継続して取り組む姿勢が大切です。
また、自社に合った改善方法や最新の取り組み事例を知るには、展示会の活用も効果的です。「食品工場Week(フードテックWeek)」および「食品工場の安全対策・環境改善フェア」では、現場改善のヒントとなる最新技術やサービスを一度に効率よく見ることができます。
ぜひご来場いただき、職場環境改善の推進に役立ててください。
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▶監修:宮崎 政喜(みやざき まさき)
エムズファクトリー合同会社 代表 / 料理人兼フードコンサルタント
出身は岐阜県、10代続く農家のせがれとして生まれ、現在東京在住。プロの料理人であり食品加工のスペシャリスト。また中小企業への経営指導、食の専門家講師も務めるフードコンサルタントでもある。飲食店舗・加工施設の開業支援は200店舗以上。料理人としてはイタリアトスカーナ州2星店『ristorante DA CAINO』出身。昨今、市町村や各機関からの依頼にて道の駅やアンテナショップも数多く手掛ける。今まで開発してきた食品は1000品目を越え、商品企画、レシピ開発、製造指導、販路開拓まで支援を日々実施している。
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