食品残渣とは?削減・リサイクルが求められる背景や取り組みの具体事例を紹介
食品残渣の増大は環境負荷や食料不足につながる問題であり、世界的に削減やリサイクルが求められています。政府主導で削減に向けた取り組みが行われている他、法律により企業には削減・リサイクルの努力が求められているため、食品業界で働く方は理解しておくことが大切です。
本記事では、食品残渣の定義や食品ロスを含む食品廃棄物の現状と課題、食品残渣を削減するための具体的な取り組み事例を紹介します。食品残渣の削減・リサイクルに関連する法律や政府が設定している目標も紹介するので、食品業界に携わっている方はぜひ参考にしてください。
食品残渣とは?
食品残渣(しょくひんざんさ)とは、食品の製造、加工、調理、消費の過程で発生する食べ残しや廃棄物をさします。食品残渣は食品関連の事業所から排出されるごみや廃棄物をさしており、一般家庭から排出されるものは含みません。
食品残渣はそのまま廃棄すると一般的なゴミと同様に環境負荷などにつながるため、リサイクルや再利用により、有効活用することが政府主導で推進されています。
食品残渣・食品ロス・食品廃棄物の違い
食品残渣に関連する用語に「食品ロス」や「食品廃棄物」がありますが、それぞれの定義は異なるため違いを理解しておきましょう。
食品ロスは、まだ食べられる状態にも関わらず捨てられてしまう食品をさします。一方、食品残渣は食べられる廃棄物は含みません。また、食品ロスは一般家庭で発生する「家庭系食品ロス」と、事業に伴って発生する「事業系食品ロス」に分類されます。
食品廃棄物とは、食べられない部分と食べられる部分の両方を含む、廃棄される食品全般をさす言葉です。食品残渣、食品ロス、食品廃棄物それぞれの定義は異なりますが、混同して使用されることもあります。
なお、いずれの廃棄物も環境や社会問題につながるため、全体として削減やリサイクルが必要である点には違いはありません。
食品ロスに関しては別の記事でも詳しく紹介しています。食品ロスについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
食品残渣のリサイクルが注目されている背景
食品残渣のリサイクルが注目されているのは、世界的に食料資源の有効活用や環境負荷削減が求められているためです。食品残渣や食品ロスといった食品廃棄物の増加は、以下のようにいくつものの課題を抱えており、世界的に問題視されています。
食品廃棄物に関する問題は日本国内だけではなく世界的に広まっており、SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」では、食品廃棄物削減が重要なテーマとして掲げられました。
日本でも、食品リサイクル法や食品ロス削減の推進に関する法律にて、食品廃棄物の削減が法律で定められ、食品残渣を含む食品廃棄物の効率的な処理や再利用が推進されています。関連法律の概要や企業に求められている目標は以降で紹介するため、参考にしてください。
食品残渣や食品ロスを含む食品廃棄物の現状
農林水産省令和3年度推計では、食品廃棄物の量は年間2,402万トンです。そのうち、食品ロスが523万トンのため、食品残渣は1,879万トンと推計できます。
食品リサイクル法に基づき、食品廃棄物等発生量の実績に関する令和3年度定期報告書を提出した食品事業者2,804社対象のアンケート結果でも、不可食部が高い割合で廃棄されていることがわかっています。
食品ロスに限定した場合、廃棄量は令和5年に約472万トンまで減少していますが、経済損失は4兆円、温室効果ガス排出量の合計は1,046万t-CO2にものぼります。そのため、引き続き食品残渣や食品ロスの削減やリサイクルには積極的に取り組まなければなりません。
食品残渣と関係が深い食品リサイクル法の概要
食品残渣に関係の深い法律のひとつが「食品リサイクル法」です。食品リサイクル法の概要は以下のとおりです。
食品リサイクル法では、食品廃棄物の発生量が年間100トン以上になる事業者は「食品廃棄物多量発生事業者」として、主務大臣に対し食品廃棄物などの発生量や再生利用状況を報告する義務があります。違反した場合は罰則の対象となるため注意しましょう。
食品残渣を含む食品廃棄物の再生利用等実施率・発生抑制の目標
食品廃棄物の再生利用実施率や発生抑制の目標は食品リサイクル法に定められています。
- 再生利用等実施率の目標
- 発生抑制の目標
それぞれ詳しく紹介します。
再生利用等実施率の目標
食品リサイクル法に基づく「食品循環資源の再生利用等の促進に関する基本方針」では、業種別に再生利用等実施率が設定されています。食品関連事業者に対して個別に義務付けられてはおらず、業種全体での達成を目指す目標です。
2015年7月に2019年度までの目標が設定されたのち、2019年7月には新たに2024年度までの目標が設定されました。さらに、2029年度までの目標も更新されています。概要は以下のとおりです。
2022年度の実績を参考にすると、食品卸売業と外食産業は目標と実績に乖離があると指摘されています。
発生抑制の目標
食品関連事業者は、食品廃棄物などの単位あたりの発生量が目標値以下になるよう努力が求められています。業種区分により細かく分類されており、以下はその一例です。
上記の目標は2028年度までの目標です。
※1 目標値の「kg/百万円」とは、売上高(百万円)あたりの食品廃棄物等の発生量(kg)
※2 目標値の「kg/t」とは、製造数量(t)あたりの食品廃棄物等の発生量(kg)
食品リサイクルに取り組む際の優先順位
食品リサイクルに取り組む際の優先順位は食品リサイクル法で規定されています。
- 発生を抑制する
- 再生利用する
- 熱回収を行う
- 減量する
つまり、食品廃棄物は発生の抑制を目指すことが最優先です。どうしても発生を抑制できないものは再生利用を検討し、再生利用できない場合は熱回収を行い、熱回収ができない場合は減量を検討するという順序です。
なお、上記の内容は、食品リサイクル法に定められている「事業者の役割」にも明記されています。
食品残渣の具体的な活用例
食品残渣の具体的な主な活用例には、以下が挙げられます。
- 肥料
- 飼料
- きのこ菌床
- バイオガス
それぞれ詳しく紹介します。
肥料として再利用する
食品残渣を肥料として再利用する方法です。野菜の皮や果物の芯などの食品残渣を堆肥化することで、土壌改良に役立つ肥料の原料を生産できると期待されています。
日本各地でも食品残渣の肥料化が行われており、野菜や穀物の栽培などに活用されています。
飼料として再利用する
食品残渣を飼料として再利用することは、「エコフィード」と呼ばれ、食料循環の効率を高める効果的な方法のひとつです。エコフィードでは、食品加工や醸造の過程で排出される食品残渣を、豚や鶏などの家畜飼料として使用します。
大手コンビニチェーンでは、食品製造工場から出た食品残渣を飼料製造業者が配合飼料と混合して液体飼料化し、豚肉の生産に利用しています。生産した豚肉をコンビニで販売するお弁当に使用するなど、効果的なサイクルを作っています。
きのこ菌床として再利用する
食品残渣をきのこ菌床として再利用する方法では、廃棄物の有効活用と農産物生産を組み合わせて使用します。有機性の高いジャガイモの皮やおからなどの食品残渣を材料として、きのこの培地(菌床)を作ることが可能です。
舞茸やブナシメジの生産に活用されています。
バイオガスとして再利用する
食品残渣をバイオガスとして再利用する方法は、エネルギー問題の解決と環境負荷軽減に貢献する取り組みです。バイオガスは発電や熱エネルギーとして利用可能で、再生可能エネルギーとして注目されています。
食品残渣を密閉されたタンク内で発酵させるとメタンガスなどのバイオガスを生成します。肥料・飼料へのリサイクルに不向きな食品廃棄物の有効的な活用方法です。
発酵後に残る液体は肥料として利用できるため、さらなる資源の有効活用ができる点もメリットに挙げられます。
食品残渣のリサイクルが進まない理由や現状の課題
食品残渣のリサイクルは推進が求められているものの、課題も少なくありません。食品残渣のリサイクルが進まない主な原因は以下のとおりです。
- 分別が難しい
- 収集運搬費やリサイクル費などの処理費がかかる
- 広域にわたる店舗からの食品廃棄物の回収が困難
事業者にとってコストの増大は大きな問題です。政府は食品ロス削減やリサイクルに取り組む事業者への補助金も提供しています。しかし、補助金は申請が必要な他、条件や対象が定められているため必ず受けられるとは限りません。
自社で食品残渣の削減やリサイクルを検討しているなら、関連メーカーや製品が出展する展示会への参加がおすすめです。食品残渣の削減・リサイクルに関する最新技術の見学や有益な情報収集ができます。
食品残渣の削減・リサイクルに関する技術の情報収集なら「フードテック Week」へ
食品残渣の削減・リサイクルに関する最新技術や情報収集に興味があるなら、ぜひ「フードテック Week」にご来場ください。フードテック Weekとは、食品製造の自動化・DX技術や、食品衛生に関する最新ソリューションが出展する展示会です。
IoT・AIソリューション、製造・検査装置など、外観検査に関わるシステムも出展する他、特別企画として「食の資源循環フェア」も開催しています。
「食の資源循環フェア」は食品残渣のサーキュラー・アップサイクル・リサイクルに特化した展示会です。関連技術を持つ企業が出展し、食品ロス軽減を目指す食品メーカー・外食チェーン・GMSなどが全国から来場します。
展示会へは、事前登録をすれば無料で入場可能です。関連サービスや製品を扱う企業なら、出展側として参加することも可能なため、自社製品の認知度向上や他社とつながる機会にもご活用いただけます。
具体的な商談の実現・リード案件獲得につながる可能性があるので、ぜひ出展もご検討ください。
食品残渣の削減・リサイクルに取り組むなら事前の情報収集が必須
食品残渣とは、食品関連の事業所から排出される食品由来のごみや廃棄物のことです。環境負荷や食料問題につながるとして、国主導で削減やリサイクルの推進が求められています。
その一環として、食品廃棄物の発生量が100トン以上になる事業者は、「食品廃棄物多量発生事業者」として報告が義務付けられています。再生利用等実施率や発生抑制の目標値も定められており、食品業者は食品残渣をはじめとする食品廃棄物の積極的な削減・リサイクルに取り組む必要があります。
しかし、食品残渣の削減・リサイクルに取り組むにあたり、コストがかかるケースも少なくないため、取り組み方は事前に検討することが大切です。
食品残渣の削減・リサイクルへの取り組みを検討している方は、ぜひ「フードテックWeek」にご来場ください。会場では、IoT・AIソリューション、製造・検査装置などをはじめとする食品業界に関連するトレンドや有益な情報の収集が可能です。食品残渣のサーキュラー・アップサイクル・リサイクルに特化した展示会「食の資源循環フェア」も併催しています。
来場側、出展側の双方にメリットがあるため、ぜひこの機会にご来場ください。
▶監修:宮崎 政喜(みやざき まさき)
エムズファクトリー合同会社 代表 / 料理人兼フードコンサルタント
出身は岐阜県、10代続く農家のせがれとして生まれ、現在東京在住。プロの料理人であり食品加工のスペシャリスト。また中小企業への経営指導、食の専門家講師も務めるフードコンサルタントでもある。飲食店舗・加工施設の開業支援は200店舗以上。料理人としてはイタリアトスカーナ州2星店『ristorante DA CAINO』出身。昨今、市町村や各機関からの依頼にて道の駅やアンテナショップも数多く手掛ける。今まで開発してきた食品は1000品目を越え、商品企画、レシピ開発、製造指導、販路開拓まで支援を日々実施している。
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