リスクマネジメントとは?目的や基本的なプロセス、食品メーカーや飲食店での事例を紹介

リスクマネジメントは長期的に事業を行う上で欠かせない要素のひとつです。リスクマネジメントを怠ると事業の存続に関わる他、ステークホルダーからの評価が下がり、資金調達や事業拡大にも影響が出る可能性があります。

本記事では、リスクマネジメントの概要や目的、国際基準に基づいた基本的なプロセスを紹介します。企業で取り入れられているリスクマネジメントの内容も紹介するので、企業のリスクマネジメントに携わっている方はぜひ参考にしてください。



リスクマネジメントとは

リスクマネジメントとは、組織的にリスクを管理し、損失などの回避または低減を図るプロセスをさします。これは、店舗経営やプロジェクト管理、金融、ITセキュリティなど、様々な分野で、不確実性を管理するために用いられる手法です。

リスクマネジメントでは、企業が経営を行う上で発生するリスクなどを正確に把握し、あらかじめ対策を講じて危機発生を回避します。もし未然に防げなかった場合は、損失を最小限に抑えるための経営管理手法です。

飲食業界においてもリスクマネジメントは重要です。例えば、飲食店が経営を行う上で発生するリスクには、食材の仕入れ価格の変動、食中毒の発生、従業員の労働環境の問題、自然災害などがあります。

これらのリスクを正確に把握し、あらかじめ対策を講じることで、危機の発生を回避します。具体的には、食材の品質管理や衛生管理の徹底、従業員の定期的なトレーニング、適切な保険の加入などが対策として挙げられます。

食中毒などの危機が発生した場合に備えて、迅速に対応できる体制や、被害を最小限に抑えるための計画を事前に準備することが重要です。


リスクマネジメントと類義語の違い

リスクマネジメントと混同しやすい言葉に「リスクヘッジ」「クライシスマネジメント」「リスクアセスメント」があります。それぞれの言葉の意味は以下のとおりです。

リスクマネジメントは組織全体のリスクが対象です。リスクヘッジは特定のリスクが対象、クライシスマネジメントは発生した危機を対象としている点で、それぞれリスクマネジメントと異なります。

一方、リスクアセスメントは、リスクマネジメントのプロセスの一部です。リスクアセスメントで得られた情報は、リスクマネジメントの他のプロセスで活用されます。


リスクマネジメントの国際規格

国際標準化機構(International Organization for Standardization、通称ISO)にはリスクマネジメント規格があります。ISO31000はリスクマネジメントの原則を定義し、具体的な枠組みやプロセスを示したガイドラインを作成しているリスクマネジメント規格です。

ISOは第三者機関から認証された規格ではありませんが、ISOは日本の工業規格であるJIS(Japanese Industrial Standards)でも参考にされている規格です。リスクマネジメントに関して、日本工業規格でもISO31000を参考にしたJISQ31000が発行されています。

なお、ISO 31000はあくまでもガイドラインであり、個々の組織の状況に応じて臨機応変に応用することが望ましいとされています。

ISOに準拠するかは任意であり、強制力はありません。しかし、社内全体でリスクマネジメントのプロセスをISOに準拠すると、独立したシステムを運用している部署との照らし合わせが容易になります。

用語や概念をISO31000やJISQ31000に準拠しておけば、将来的に他のマネジメントシステムを導入する際にも整合性が取りやすくなる可能性もあります。


リスクマネジメントを行う目的

JISQ31000では、リスクマネジメントの実践によって得られる効果を以下のとおりに紹介しています。

  • 事前管理を促し、損失を最小化する
  • 組織的学習および組織の適応力を改善する
  • 意思決定および計画のための信頼できる基盤を確定する
  • リスク対応のために資源を効果的に割り当てて使用する
  • 管理策を改善する
  • ステークホルダーの信頼および信用を改善する

上記の結果により、事業の永続性を向上させることがリスクマネジメントの目的です。

リスクマネジメントの取り組みは社外の信頼にも影響します。そのため、投資家をはじめとするステークホルダー向けに、公式ホームページでリスクマネジメントの取り組み内容を詳しく掲載している企業もあります。


リスクマネジメントの4つのプロセス

リスクマネジメントのプロセスを、以下の4つの段階に分けて紹介します。

  1. リスクの特定
  2. リスクの分析
  3. リスクの評価
  4. リスクへの対応

JISQ31000のリスクマネジメントプロセス全体では、各段階でコミュニケーションおよび協議を行うことが示されています。

リスクマネジメントは特定の部署だけで行うのではなく、ステークホルダーを含めた社内外で対話や情報共有が大切である点を踏まえた上で、上記の4つのプロセスを理解しましょう。


1.リスクの特定

直面する可能性があるリスクを洗い出すためには、ヒアリングで各部署や社外の利害関係者の意見も取り入れましょう。リスクを洗い出す手法の一例は以下のとおりです。

  • ブレインストーミング
  • チェックリストの活用
  • 過去のインシデント分析

主観的な判断でリスクの大小を決めず、全て洗い出すことが大切です。


2.リスクの分析

洗い出したリスクを「影響の大きさ」と「発生確率」から分析・算定します。算定式は「リスクの大きさ= 発生した時の影響の大きさ× 発生確率」です。

リスクの分析では影響の大きさを重視する傾向にありますが、軽度な影響でも頻度が高いものは無視できません。

また、リスクは金銭的な基準のみで評価するべきではありません。例えば、人の命に関わるケースや企業イメージに関わるケースなど、リスクによって発生する損失は金銭以外にもあります。全てを同一基準で算定する手法はないため、様々な手法を使い分けて算定することが大切です。

長期的な予測のもと、リスクによって起こる変化が事業に与える影響を検討する「シナリオ分析」、事象をモデル化して数値的に解析・可視化する「数値シミュレーション」などが、リスクの影響を評価する際に用いられる手法として挙げられます。


3.リスクの評価

算定したリスクに優先順位をつける作業を「リスク評価」と呼びます。リスクの大きさを見える化する作業で、あらかじめ用意しておいた基準にあてはめて評価するプロセスです。

一例として、リスク評価の過程で用いられる「リスクマトリックス(マトリクス法)」を紹介します。リスクマトリックスでは、縦軸にリスクの重篤度(影響の大きさ)、横軸に発生確率を並べ、組み合わせからリスクを評価します。

上記のリスクマトリックスでは、影響度が大きく、発生確率が高いリスクほど左上に現れます。リスクの程度に応じて優先度を決定しましょう。


4.リスクへの対応

リスクの評価で明らかになった、対応すべきリスクへの対応策を検討します。対応方法には、発生頻度や大きさを抑える「リスクコントロール」と、損失を補填する「リスクファイナンシング」の2つがあります。

リスクコントロールは、損失の発生頻度と大きさをコントロールする手法です。一方、リスクファイナンシングは損失を補填するための金銭的な手当てをさします。

2つを組みあわせて具体的かつ効果的なリスク対策を講じます。リスク対策の結果、残留リスクが容認できる水準になっているか評価することも大切です。



リスクマネジメントを実践している食品製造・販売企業の事例

国内大手の食品製造・販売企業では、ステークホルダー向けにリスクマネジメントの基本方針や活動内容、体制を紹介しています。公表されている資料を確認すれば、企業のリスクマネジメントへの取り組みの全体像が理解できるでしょう。

例えば、大手食品・飲料メーカーではリスクへの対応方針を公表しています。リスクマネジメントの基本方針から、整備体制の概要、具体的な活動内容と具体的なフロー、重点リスク課題として取り上げているリスクが掲載されています。重点リスク課題は、企業の業種にあわせて内容が異なるもののひとつです。

大手食品・飲料メーカーでは、経営戦略や人材戦略に対するリスクの他、異物混入、表示の誤り、品質検査の不備、品質不良の出荷や健康被害など、食の安全性に対するリスクが重点リスク課題に考慮されています。

ステークホルダー向けにリスクマネジメントの取り組みを公表する際は、内容を詳細かつ明確に説明するとともに、業種に応じた具体的な事例を記載することが大切です。



【飲食店】リスクマネジメントの具体例

リスクマネジメントの内容は業種や業態によって異なります。例えば、飲食店で発生が考えられるリスクと対応策は以下のとおりです。

なお、リスク低減のためには、オペレーションの改善をはじめとするアナログな方法も有効です。一方、人手不足のリスク低減に貢献するシステムや、SNSマーケティングでの炎上対策に効果的なシステムなど、最新技術の導入も効果的です。

リスクマネジメントをマンパワーだけで行うと、膨大な労力がかかるかもしれません。必要に応じてシステムやツールの導入も検討しましょう。


人手不足のリスクへの対策

飲食業界における人手不足のリスクを軽減するためには、以下の対策が効果的です。

これらの対策を講じることで、飲食業界における人手不足のリスクを軽減し、安定した経営を維持することが可能となります。


資金不足のリスクへの対策

飲食業界における資金不足のリスクを軽減するためには、以下の対策が効果的です。


衛生管理のリスクへの対策

飲食業界における衛生管理のリスクを軽減するためには、以下の対策が効果的です。


火災・災害のリスクへの対策

飲食業界における火災や災害のリスクを軽減するためには、以下の対策が効果的です。



飲食店のリスクマネジメントなら「レストランマネジメントEXPO」で情報収集を

飲食店のリスクマネジメントに有益な情報を収集したい場合は、「レストランマネジメントEXPO」にご来場ください。

レストランマネジメントEXPOは、飲食店の経営や店舗管理の課題を解決するための展示会です。会場は「集客支援ゾーン」「バックオフィスゾーン」「リスクマネジメントゾーン」の3つに分かれています。

「リスクマネジメントゾーン」では、炎上対策や情報漏洩対策をはじめとするリスクマネジメントに関する内容の出展が行われます。飲食店のリスクマネジメントに役立つ情報を得ながら、様々な製品・サービスを比較検討可能です。

また、飲食店の自動化・DXに特化した展示会「スマートレストランEXPO」も同時開催します。人手不足問題・労働環境の改善などの課題を、先端テクノロジー(ロボット・IoT・AIなど)で解決する企業が、最新技術や製品を出展します。人手不足リスクや衛生管理リスクなどの対策に役立つ情報・製品が見つかるかもしれません。

各展示会は事前登録すれば無料で入場可能、出展側としての参加も可能で、自社製品のアピールや他社との商談の機会として活用できます。飲食店のリスクマネジメントに携わっている方や興味がある方はぜひご来場ください。

レストランマネジメントEXPO
2025年12月3日(水)~5日(金)開催

スマートレストラン EXPO
2025年12月3日(水)~5日(金)開催



リスクマネジメントは事業の長期的な成功に欠かせない要素

リスクマネジメントは組織的にリスクを管理し、損失等の回避または低減を図るプロセスです。発生が予測されるリスクに対してあらかじめ備えておくことで、損失を最小限に抑えられます。リスクマネジメントへの取り組みはステークホルダーからの評価にも影響するため、長期的で持続可能な事業を行う上で必要不可欠です。

リスクマネジメントのガイドラインにはISO31000やJISQ31000があります。ただし、あくまでもガイドラインであり、リスクマネジメントを行う際には個々の事業にあわせて応用することが大切です。

飲食店でリスクマネジメントに携わっており、有益な情報の収集や、リスク対策に役立つ製品に興味がある方はレストランマネジメントEXPOにぜひご来場ください。


▶監修:宮崎 政喜(みやざき まさき)

エムズファクトリー合同会社 代表 / 料理人兼フードコンサルタント

出身は岐阜県、10代続く農家のせがれとして生まれ、現在東京在住。プロの料理人であり食品加工のスペシャリスト。また中小企業への経営指導、食の専門家講師も務めるフードコンサルタントでもある。飲食店舗・加工施設の開業支援は200店舗以上。料理人としてはイタリアトスカーナ州2星店『ristorante DA CAINO』出身。昨今、市町村や各機関からの依頼にて道の駅やアンテナショップも数多く手掛ける。今まで開発してきた食品は1000品目を越え、商品企画、レシピ開発、製造指導、販路開拓まで支援を日々実施している。



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