衛生管理者の役割とは?資格の種類や受験資格、選任が必要なケースをわかりやすく解説
衛生管理は、労働者が安全に働く環境を作るために欠かせません。一定規模の事業場では、衛生管理に関する業務を担う「衛生管理者」の選任が必要です。
本記事では、衛生管理者の業務内容や選任が必要なケース、資格の種類と受験資格をわかりやすく紹介します。
衛生管理者の具体的な業務内容や免許に必要な条件、選任が必要な具体的な事業規模を知りたい方はぜひ参考にしてください。
衛生管理者の役割とは?
衛生管理者とは、労働条件や労働環境の衛生的改善と疾病の予防処置等を担当し、事業場の衛生全般を管理する人をさします。職場での労働者の健康障害を防止する役割として、一定規模以上の労働者を使用する事業場で設置される役職です。
労働安全衛生法では、常時50人以上の労働者がいる事業者から衛生管理者の選任が義務付けられています。ただし、衛生管理者は誰でも良いわけではなく、衛生管理者免許、医師、労働衛生コンサルタント等の免許が必要です。
また、特定の業務や環境での業務においても衛生管理者の選任が必要とされる場合があるほか、労働者の数が少なくても、特定の有害業務が行われている場合は衛生管理者の選任を求められることがあります。
衛生管理者免許には「第1種衛生管理者」「第2種衛生管理者」「衛生工学衛生管理者」の3種類があり、業務の範囲は「衛生工学衛生管理者→第1種衛生管理者→第2種衛生管理者」の順に広くなります。種類による違いは、以降で紹介します。
衛生管理者の資格の種類
前述のとおり、衛生管理者の資格は、大きく分けて第1種衛生管理者、第2種衛生管理者、衛生工学衛生管理者の3種類です。資格によって対応できる業務の範囲が異なるので、取得を考えている場合は事前に理解しておきましょう。
第1種衛生管理者・第2種衛生管理者
第1種衛生管理者は、全ての業種の事業場で衛生管理者になれます。一方、第2種衛生管理者を衛生管理者として専任できるのは、有害業務と関連の少ない業種の事業場のみです。
有害業務に関連のある業種とは、具体的に以下の業種をさします。
- 農林畜水産業
- 鉱業
- 建設業
- 製造業(物の加工業を含む)
- 電気業
- ガス業
- 水道業
- 熱供給業
- 運送業
- 自動車整備業
- 機械修理業
- 医療業および清掃業
以上の業種の衛生管理者は、第1種衛生管理者もしくは衛生工学衛生管理者免許が必要ですが、以上に当てはまらない業種では、第2種衛生管理者でも衛生管理者に選任できます。
例えば、有害業務と関連の少ない情報通信業や金融・保険業、卸売・小売業などは、第2種衛生管理者を衛生管理者として選任できます。
厚生労働省のホームページには、以下のとおりに示されています※。
※出典:厚生労働省「衛生管理者」
上表の業種のうち、衛生管理者を選任しなければならない事業場は、常時50人以上の労働者を使用する事業場です。規模に応じて選任が必要な人数も異なります。規模ごと詳しい人数は後述する内容を参考にしてください。
衛生工学衛生管理者
衛生工学衛生管理者は、第1種衛生管理者と同じく、有害業務を含めた全ての業種で衛生管理者になれます。
しかし、法定の有害業務のうち一定の業務を行う有害業務事業場では、衛生管理者のうち、一人を衛生工学衛生管理免許所持者から選任しなければなりません。
具体的には、常時500人を超える労働者を使用する事業場で、坑内労働または労働基準法に記載された、下記業務に常時30人以上の労働者を従事させる場合、衛生工学衛生管理者の専任が必要です。
- 多量の高熱物体を取り扱う業務および著しく暑熱な場所における業務
- ラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線にさらされる業務
- 土石、獣毛等のじんあいまたは粉末を著しく飛散する場所における業務
- 異常気圧下における業務
- 鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリン、その他これに準ずる有害物の粉じん、蒸気またはガスを発散する場所における業務
以上に該当する場合、第1種衛生管理者免許だけでは衛生管理者に選任できません。そのため、衛生工学衛生管理者は、第1種より上位の資格として位置付けられます。
衛生管理者の業務内容
第1種衛生管理者、第2種衛生管理者など、資格によって選任可能な業務の範囲は異なります。
衛生管理者は、下記に関する項目のうち、衛生に関する技術的事項の管理を行います。
- 労働者の危険または健康障害を防止するための措置
- 労働者の安全または衛生のための教育の実施
- 健康診断の実施その他の健康の保持増進のための措置
- 労働災害防止の原因の調査および再発防止対策
さらに、衛生管理者は作業場等を少なくとも毎日、毎週1回、あるいは必要に応じて定期的に巡視し、設備や作業方法、また衛生状態に有害のおそれがある時は、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければなりません。
衛生管理者が行うべき措置は、厚生労働省のホームページに記載されています。具体的な内容は、以下のとおりです※。
- 健康に異常がある者の発見および処置
- 作業環境の衛生上の調査
- 作業条件、施設等の衛生上の改善
- 労働衛生保護具、救急用具等の点検および整備
- 衛生教育、健康相談その他の労働者の健康保持に関する必要な事項
- 労働者の負傷および疾病、それによる死亡、欠勤および移動に関する統計の作成
- その事業の労働者が行う作業が他の事業の労働者が行う作業と同一の場所において行われる場合における衛生に関し、必要な措置
- その他衛生日誌の記載等職務上の記録の整備等
- 安全衛生に関する方針の表明に関すること
- 労働安全衛生法第28条の2第1項または第57条の3第1項および第2項の危険性または有害性等の調査およびその結果に基づき講ずる措置に関すること
- 安全衛生に関する計画の作成、実施、評価および改善に関すること
※出典:厚生労働省「衛生管理者」
衛生管理者の選任が必要なケースと人数
衛生管理者の選任が必要かどうかは、事業場で常時使用する人数によります。常時50人以上の労働者を使用する事業場では、衛生管理者の選任が必要です。
下表のとおり、事業場の規模によって、選任が必要な人数も異なります※。
※出典:厚生労働省「衛生管理者」
2人以上の衛生管理者を選任する場合で、衛生管理者のなかに労働衛生コンサルタントがいる時は、労働衛生コンサルタントのうちの一人は専属でなくても問題ありません。
ただし、「常時1,000人を超える労働者を使用する事業場」または「常時500人を超える労働者を使用し、かつ法定の有害業務に常時30人以上の労働者を従事させている事業場」では、衛生管理者のうち、少なくとも1人の専任が必要なので注意しましょう。
また、衛生工学衛生管理者が必要な有害業務の場合は、衛生管理者のうち1人を衛生工学衛生管理免許所持者から選任する必要があります。
衛生管理者になるためには?|合格率・受験資格・受験内容
衛生管理者免許は国家資格です。ここでは、受験に関する以下の項目を紹介します。取得を目指している人は参考にしてください。
衛生管理者の合格率は50%前後
衛生管理者免許合格率は、公益財団法人安全衛生技術試験協会が公表しています。令和4年度の受験者数や合格者数、合格率は下表のとおりです※。
過去の合格率を含め、第1種衛生管理者より、第2種衛生管理者の方が合格率は高い傾向にあります。
衛生管理者の受験資格
第1種衛生管理者、第2種衛生管理者の主な受験資格は以下の3つです。
- 大学または高等専門学校(短大を含む)を卒業し、労働衛生の実務経験1年以上がある
- 高等学校を卒業しており、労働衛生の実務経験3年以上がある
- 労働衛生としての実務経験10年以上がある※1
受験資格の詳細や、受験資格を有しているかの証明に必要な添付書類は、公益財団法人安全衛生技術試験協会のホームページ※2で確認できるので、受験を考えている人は確認しておきましょう。
なお、衛生工学衛生管理者の場合、以下の条件を満たすと免許取得のための講習を受講できます。講習受講後、修了試験に合格する必要すると、免許の取得が可能です。
- 第1種衛生管理者免許試験に合格している(保健師・薬剤師の資格による免許取得者は対象外)
- 大学または高等専門学校で工学、もしくは理学に関するカリキュラムを履修して卒業している
- 職業能力開発総合大学校で長期課程の指導員訓練を修了している
- 指定の大学で保健衛生に関する学科を専攻し、労働衛生に関する講座もしくは科目を履修して卒業している
- 労働衛生コンサルタント(保健衛生・労働衛生工学)試験に合格している
- 作業環境測定士となる資格を保持している
それぞれのコースを受講するために必要な条件や、各コースの料金は、講習を実施している協会のホームページ※3で確認できます。
※1:実務経験の証明として、受験者が実務経験を証明するためには、一般的に勤務経歴書や職務経歴書を提出、そして所属する(した)組織、企業からの証明書を取り寄せます。これによって、受験資格を満たしていることが確認できます。
※2:公益財団法人安全衛生技術試験協会「受験資格(第一種衛生管理者・第二種衛生管理者)」
※3:中央労働災害防止協会「衛生工学衛生管理者コース(4日・2日コース)」
衛生管理者免許試験の受験料
受験料は、免許試験手数料として定められています。衛生管理者の受験料は8,800円です。受験申請書にとじ込まれている払込用紙を使い、最寄りの郵便局や銀行で支払えます。
衛生工学衛生管理者の場合は、4日コース・2日コースがあり、所有資格や受験資格に応じて金額が異なるので注意しましょう。講習科目ごとの受験料は以下のとおりです※。
保有する資格によって受講できるコースが異なるので、事前に確認しておきましょう。
衛生管理者免許の試験内容
衛生管理者の試験内容(試験科目)は、第1種衛生管理者と第2種衛生管理者、特例第1種衛生管理者で分けられます。
特例第1種衛生管理者試験とは、第2種衛生管理者免許を受けた人が、第1種衛生管理者免許試験を受験する場合に該当する試験です。
種類ごとの試験科目や範囲は、以下のとおりに定められています※。
衛生工学衛生管理者の講習スケジュールは、講習を実施している協会のホームページのPDFで詳しい内容を確認できます。
各コースには定員や開催日程が決められているので、受講を考えている人は事前に確認し、申し込みましょう。
食品業界の衛生管理に関する知識を深めたい方は「食品衛生イノベーション展」へ
本記事では、事業所や工場などの労働環境改善や安全管理を担当する「衛生管理者」について紹介しましたが、飲食店や食品工場などで食品の製造販売に関わる資格として「食品衛生管理者」という資格も存在します。
「衛生管理者」と「食品衛生管理者」は資格名が似ているため混同されやすいですが、全く別物であることは理解しておきましょう。このように衛生管理には様々な知識が必要ですが、インターネット上の情報のみではわからないことが多いかもしれません。
そこで、衛生管理に関する最新の情報や企業で採用されている技術を知りたい場合は、展示会への参加をおすすめします。
特に、食品業界に携わっている方は、ぜひ食品衛生イノベーション展への来場をご検討ください。食品衛生イノベーション展は、食品製造業の重要テーマである「食品衛生の課題解決」のための専門展です。事前登録すれば無料で入場可能で、食品業界に関わるメーカーや商社、部門が多く出展・来場します。
品質管理、製造、生産技術、経営・管理に関する情報収集や、新規リード獲得・営業強化の機会として、ぜひご活用ください。
さらに、同会場では食品製造に関する最新設備やソリューションが一堂に出展する「フードテックジャパン」も開催されます。
こちらは、食品業界や飲食業界の人手不足・労働環境などの問題を最新テクノロジー(ロボット・IoT・AI・DXソリューションなど)で解決するための展示会です。衛生管理の他に、自動化やDXに興味がある人は、ぜひ足を運んでみてください。
なお、食品衛生イノベーション展やフードテックジャパンは、出展側としての参加も可能です。全国から食品業界の関係者が多数来場するため、自社製品をアピールする場や、販路拡大や商談につながる可能性もあります。
来場側、出展側の双方にメリットがあるので、食品の衛生管理や工場の自動化・DXに興味がある人はぜひ来場してください。
食品衛生イノベーション展とフードテックジャパンの詳細は以下のとおりです。
一定規模の事業場では衛生管理者の選任が必須
一定規模の事業場では、事業規模に応じた人数の衛生管理者選任が必要です。有害業務が含まれる場合は、第1種衛生管理者や衛生工学衛生管理者の選任が必須なので注意しましょう。選任が必要なケースや、受験資格などは各種公的機関のホームページで確認できるので難しくありません。
衛生管理者免許に関してだけではなく、業務上で使える具体的な衛生管理手法やシステムに関する知識を深めたい方は、展示会に足を運ぶことをおすすめします。
食品業界に携わっている場合は、多くの食品メーカー・商社が集まる食品衛生イノベーション展や自動化・DXなど最新テクノロジーに特化したフードテックジャパンへぜひご参加ください。
▶監修:宮崎 政喜(みやざき まさき)
エムズファクトリー合同会社 代表 / 料理人兼フードコンサルタント
出身は岐阜県、10代続く農家のせがれとして生まれ、現在東京在住。プロの料理人であり食品加工のスペシャリスト。また中小企業への経営指導、食の専門家講師も務めるフードコンサルタントでもある。飲食店舗・加工施設の開業支援は200店舗以上。料理人としてはイタリア トスカーナ州2星店『ristorante DA CAINO』出身。 昨今、市町村や各機関からの依頼にて道の駅やアンテナショップも数多く手掛ける。今まで開発してきた食品は1000品目を越え、商品企画、レシピ開発、製造指導、販路開拓まで支援を日々実施している。
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