12月に開催が迫る「第3回 フードテックジャパン 東京」。今回、併催セミナーに初登壇となるインテグリカルチャー(株)代表取締役CEO 羽生 雄毅 氏のインタビューをお届けします。汎用性の高い大規模細胞培養システム "CulNet システム(特許技術)"を用いた未来の食文化の研究開発をおこなう同社の沿革や、培養肉の普及に向けたインフラ整備における課題、培養肉が今後どうなっていくのかなど、興味深いお話しをたくさんお聴きしました。みなさん、ぜひご一読ください。
未来の肉「培養肉」の普及に向けて
講演
未来の肉「培養肉」の実用化に向けて
培養肉・細胞農業の現状と将来
【日時】2022年12月07日(木)|14:00~15:00
【会場】幕張メッセ 【登壇者】インテグリカルチャー(株)代表取締役CEO 羽生 雄毅 様
羽生氏 プロフィール
2010年、オックスフォード大学博士(化学)、東北大学多元物質科学研究所、東芝研究開発センター、システム技術ラボラトリーを経て、2014年に「オープンソースDIY培養肉」を掲げる有志の市民科学団体"Shojinmeat Project"を立ち上げる。培養肉の産業化からの細胞農業の大衆化を目指して、2015年にインテグリカルチャー(株)を設立、代表取締役CEOを務める。インテグリカルチャーでは、誰もが培養肉を含む細胞農業製品を作れるようになる技術インフラ、"CulNet システム"を提供している。
■会社設立から現在に至るまで
ーさっそくですが、会社を立ち上げたきっかけを教えてください。
羽生 実は、培養肉開発をはじめようとしたきっかけと、法人設立は少し事情が異なっています。培養肉をはじめた理由については、個人的な話になってくるんですが、培養肉の開発をおこなう同人サークル「Shojinmeat Project」を立ち上げたことで、それを進めていくための試薬を購入したり、支援を得るために法人格を取得したというのが背景ですね。
ー羽生さんとしては、会社設立前から培養肉に興味を持たれていたんですね。
羽生 正確には、培養肉を含む“ナマモノづくり”ですね。
ーそれは、食材に限らず色々な分野でということですか?
羽生 培養肉がメインではありますが、この技術自体は皮革やコスメ、再生医療にも活用できますし、サイボーグ部品だって作れるだろうということが、割と早いうちから見えていました。
ー会社の設立は2015年ですが、その前から「Shojinmeat Project」での活動は進めていらっしゃったんですか。
羽生 そうですね。2014年の2、3月くらいから進めていました。
ー日本では培養肉の研究機関や会社がまだまだ少ない状況の中で、御社はパイオニア的存在ですが、実際に会社設立後、どのような取り組みをされてこられたのでしょうか。
羽生 やはり培養肉の技術開発の至上命題は「安く細胞培養をする」というところなので、そこを中心に技術開発や実証などを進めてきました。それが、特許技術である"CulNet(カルネット) システム “として体系化されてきたので、そのシステムをもとに事業モデルを組み立て、今に至っています。
■資金調達やパートナー企業との取り組みについて
ー先ほどキーワードにも上がったように培養肉はコストが膨大にかかるという話をよく耳にしますが、そのあたりの将来展開は、どのように捉えていらっしゃいますか。
羽生 そこはいろいろな方法で安くすることができますし、すでに安くなっている部分もあります。だから、技術的にできるかできないかというところは心配していないものの、それを実現させるための資金やビジネスモデルといったサイエンス以外の心配ごとが大きいですね。
ー技術というよりは、商業化に向けて求められる政府の法整備や、あるいはスケールを大量にあげていくための生産設備の協力者がこれからもっと必要だということですか?
羽生 はい。
ー御社は他にも、さまざまなパートナー企業と連携されていらっしゃると思うんですが、そのようなパートナー探しの必要性も感じていらっしゃいますか。
羽生 非常にありがたいことに、今もいろんな方からお声がけいただいていて、共同研究が進められる状況にはなっています。
ー今、事業としてはかなり成長軌道にのっているんですね。
羽生 はい。でも、いわゆるお金という意味でいうとまだまだなので、資金調達に力を入れつつ、技術実証や事業実証を進めている状況です。
また、弊社の生い立ちの中でもう一つ重要なのが、前身となる「Shojinmeat project」のメンバーには、ルールメイキングや法整備などの方面に進んだ方もいまして、培養肉のインフラを構築するという動きは、決して弊社単独ではなく、「Shojinmeat project」出身の人たちが、いろいろなところで絡んだ総合的なムーブメントになってるという点です。
■培養肉に興味を持ったきっかけ
ー培養肉という言葉は、ここ1年くらいで、日本でも耳馴染みのある言葉になってきたと思うんですが、羽生さんご自身が培養肉に関心をもったきっかけは何だったんですか。
羽生 今となっては、きっかけがなにかは全然わからないですね。培養肉はSF作品の定番として常にあるものだったので、宇宙船の中に緑のチューブがあって、ゴボゴボゴボって作られるみたいなイメージで、概念としては6~7歳の頃にはすでに知っていたんじゃないかなと思います。
ーそれが具体的に培養肉の開発に結びついてきたんですね。
羽生 会社を立ち上げる前は東芝にいたんですが、そろそろ自分の好きなSFを追いかけたいなと思う中で、今やるなら培養肉なのではないかと思ったのがきっかけですね。
ー東芝ではどのような事業に携わっていたんですか。
羽生 大型蓄電池システムです。環境エネルギーの分野ですが、環境エネルギーもやはり、近未来SFものの定番の景色でしたから。
■培養肉市場の現状
ー続いて、現状の培養肉市場についてご説明いただけますか。
羽生 事実上、市場自体はまだ存在していません。ほんの例外で、シンガポールの「イート・ジャスト(Eat Just)」が出している商品がある、という感じですね。
ー再生医療も、すごい技術でありながらなかなか市場化が難しいといわれていますが、培養肉もそれとちょっと近いところがあるんですね。イート・ジャストのお話もありましたが、培養肉の分野は、やはり日本より海外の方が先行しているんでしょうか?
羽生 資金調達という意味ではアメリカがやはりダントツで先を行っていますね。でも技術に関しては、ある部分では強いけれども、ある部分では弱いというように組織によって得意不得意があるので、どの国が一番強いかは、なかなかわからない状況にあります。
ー培養肉をつくる技術は、かなり細分化されているんですね。
羽生 そうですね。バイオリアクターの技術なのか、それとも成長因子の技術なのかなど、いろいろな技術があります。
ー実際に、今後の培養肉市場は、何年後くらいには一般の方にも広がるような現実的な話になりそうですか。
羽生 何をもって広がったとするのかの定義が難しいですが、何らかの細胞培養で作られた食品が生産ラインにのるのは、2025~6年くらいだと思っています。
ー今から5年以内には、生産ラインにのってくるんですね。
羽生 そうですね。生産ラインにのるという条件をつけなければ、もうすでに起こっていることですし、それは今後もどんどん拡大していくと思います。
■今後の事業展開について
ー培養肉開発に向けたインフラ整備に取り組まれるにあたって、今後、事業を成功させていく上で大事にされていることはありますか。
羽生 事業を成功させる上でという条件をつけるのならば、弊社の技術を使ったインフラが採算ラインにのるようなビジネスモデルを設計することが最重要ミッションになりますね。また、それによってできたものが幅広い属性の方々が使えるインフラになることを目指しています。
ー御社が単独で実現するというよりは、様々な関係者の方とタッグを組んで進めていくという方がイメージに近いのかなと思いますがいかがですか?
羽生 それは必要ではあるものの、パートナーを組んでグループで何かを独占したり掌握したりすることを指標にしてしまうと、みんなが使えるインフラにはならないというリスクもあると思っています。
ーまさに先ほど羽生さんがおっしゃった、たくさんの方が利用できるようなインフラを構築することが、御社としてのミッションになっているというということなんですね。
■セミナーの概要について
ー今回初めて「フードテックWeek」で、培養肉をテーマにご講演いただきますが、今回のセミナーの概要をご説明いただけますか。
羽生 培養肉は、今話題にはなっているものの、実際の中身はあまり知られていないので、具体的な内容や最新の状況などを紹介したいと思っています。
具体的には2030年にタンパク質の需要が供給を上回るといわれている「プロテインクライシス」や、農業資源をめぐる燃料との競合など様々な社会課題があり、そのソリューションとして培養肉が提案されてはいるもののコストや汎用性の面で課題があるという現状があります。そんな中、私たちはその課題をこのように解決して、みんなが使えるものを目指していますということをお伝えした上で、培養肉が今後どのようになっていくのかというお話ができればと思っています。
新技術というのは、出はじめの頃はハイコストでも、技術が進歩すればするほどコストパフォーマンスは上がっていくものです。そして、価格等価点(price parity)に到達することによってディスラプションが起きて急激に普及し始めるのですが、かつてバニラ香料がそうであったように、培養肉も工業化の過程で技術的に完全再現には至らず、天然と合成の二つの市場ができる可能性もあり得ます。このように、技術の工業化に至るプロセスのパターンを、過去事例をもとにお話できればと思っています。
そして、実際に培養肉が価格等価点に到達した後どのような景色が見えるのかについても、 Minimum Efficient Scale (MES)という概念を用いてご説明できればと思っています。MESというのは、企業が競争力のある価格で製品を生産できるコスト曲線の最低点のことですが、MESが500万円であれば一般飲食店なども参入できる状態になりますし、MESが500億円だと大資本による一極集中状態に陥ります。ちなみに現時点の培養肉のMESは5億円くらいだろうと試算しているので、一極集中と多極分散の中間くらいの、地ビール的な領域なのではないかと思っています。MESは技術の進歩によって小さくなる方向に進んでいくので、今後は大規模事業者もあれば小規模事業者もあるというような状況がどんどん広がっていくのではないかとイメージしています。
ーおもしろいですね。
羽生 当日お話しするかどうかはまだ迷っているんですが、培養肉が本格的に普及した時にアミノ酸源がどうなるかとか、細胞農業での事業形態の例だとか、細胞水産業での事業モデルの可能性などにも話を広げることができます。
ーいわゆるインフラとしての技術になるので、培養肉に限らず農業や水産業など多方面でも活用できるのではないかというところですね。すごくおもしろそうですね。
■セミナーをご聴講いただくみなさんに向けて
ー最後に、当日聴講される方へ向けてメッセージをいただけますか。
羽生 持続可能で食料安全保障環境を改善するタンパク源として期待される培養肉は、一部の国で商品化され、本邦でも安全基準の策定が進んでいるが、コストの低減と商品力の向上が課題になっています。
講演では、培養肉と細胞農業全般について今後想定される展開について紹介します。
ーありがとうございます。当日の講演を楽しみにしています。
スマートレストランEXPO
【会期】2022年12月7日(水)~9日(金)
【会場】幕張メッセ
【主催】RX Japan株式会社
講演
未来の肉「培養肉」の実用化に向けて
培養肉・細胞農業の現状と将来
【日時】2022年12月07日(木)|14:00~15:00
【会場】幕張メッセ 【登壇者】インテグリカルチャー(株)代表取締役CEO 羽生 雄毅 様
画像出典:インテグリカルチャー(株)https://integriculture.com/technology/