フードビジネスの進化に必要不可欠なDX、その本源的な意味とは?

12月7日から幕張メッセで開催される「スマートレストランEXPO 」にてご講演いただく、ロイヤルホールディングス(株)代表取締役会長 菊地 唯夫様に、講演に先がけてお話をうかがいました。


講演
「DXこそが、フードビジネスを進化させる」
【日時】2022年12月09日(金)|10:00~11:00 【会場】幕張メッセ 【登壇者】ロイヤルホールディングス(株)代表取締役会長 菊地 唯夫 様

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ポストコロナの外食産業を支えるのは、テクノロジーだ

事務局:さっそくですが、12月9日の講演(「DXこそが、フードビジネスを進化させる」)の主題について教えていただけますか。

菊地様:大きく分けて2つの論点がありますが、そのうちの一つが、ポストコロナの外食産業を支えるテクノロジーについてです。

世界的にはロシアによるウクライナ侵攻やグローバルサプライチェーンの機能不全、そして国内をみても人口減少本格化による人手不足や人件費上昇、円安進行など、ポストコロナの外食産業を考えた時には、同時にさまざまな問題が浮かび上がってきます。

このような状況の中で「稼ぐ力」をいかに回復していくかが重要なポイントになるのではないかと思います。

事務局
:「稼ぐ力」というのは、具体的にはどのようなことでしょうか。

菊地様:「顧客のさまざまなニーズに合わせた商品やサービスを、効率的な手法で提供することによって対価を得るプロセスをマネージメントする力」を、私は稼ぐ力と定義しています。

これまで外食産業では、顧客のニーズに合わせた商品やサービスを提供するために調理力やホスピタリティを磨き、効率的な手法でそれを提供するためにフードコストやレイバーコストをコントロールし、きちんと利益をあげる構造にすることで損益バランスを調整してきましたが、新型コロナウィルスによるパンデミックによって、お客様のニーズが完全に変わってしまい、そのコントロール機能が一気に低下してしまいました。

事務局:お客様のニーズは、コロナ前後でどのように変化したのでしょうか。

菊地様:もともと外食産業では、「外食」「中食」「内食」を、それぞれ別のマーケットとして考えていました。実はコロナ前は、中食や内食のプレーヤーが、どんどん外食に入っていく動きがみられたのですが、コロナによって、今度は外食のプレーヤーが中食、内食に入っていくという動きに変化しました。つまり、今まで別々に考えていた外食・中食・内食というマーケットが融合し、お客様が自分の好きな時間に、好きな場所で、好きなスタイルで食の選択をおこなうことができるようになったということですね。

そうやって時間や場所から解放されたお客様のニーズに対応するために、外食事業者は、自分たちが持っている無形資産を、もう一回リパッケージしてお客様に提供する戦略を考えました。それが、テイクアウトやデリバリー、フローズンミールやゴーストキッチンです。そしてこれらの背景には、やはりテクノロジーの進化があるのですね。

このようなお話が、今回の講演の大きな論点の一つになると思います。

飲食店の「稼ぐ力」を回復するために、DXがもたらす5つの変革ポイント

事務局:一つ目の論点として、コロナ以後の外食産業を支えるテクノロジーについてあげていただきましたが、二つ目の論点についても教えてください。

菊地様:はい。外食産業には必ず繁閑の差があり、これまで飲食店は繁忙期には人を増やし、閑散期には人を減らすことで、繁閑の波による損益バランスを調整してきました。これはコロナ以前からある問題ですが、近年の圧倒的な人口減少による人手不足で、そのバランスを保つことができなくなり、例えばアルバイトの方に社員になっていただくなどの対処をすることで、人手不足を解消してきました。しかしアルバイトが社員になるということは、今まで変動費だったものが固定費に変わるということなので、損益分岐点売上高があがります。外食産業が調整してきた繁閑の波について、損益分岐点に対して黒字の面積がトータルで赤字の面積を超えれば黒字、超えなけば赤字というバランスとなりますが、損益分岐点売上高があがることによって黒字が減り、赤字が大きくなっていくということになります。

私は、この構造的な人手不足と、先ほどお話しした「時間と場所から解放されたお客様」によって従来のようにコントロールができなくなってしまった状況から「稼ぐ力」を回復するために必要なのが、デジタル化だと思っています。

事務局:デジタル化することで人件費を削減したり、業務を効率化するということですか。

菊地様:デジタル化というのは、例えば人を何人減らしますなど、いろいろと表面的な効果があると思うのですが、私は、もっと本源的に「サービス産業とDXにはどういう関係性があるか」というところを整理しなくてはいけないと思っています。

そこで私が今注目しているのが、DXがサービス産業にもたらすであろう5つの大きな変革ポイントについてです。その5つとは次の通りです。

1. 波(繁閑の差)の影響を緩和する
2. サービスの提供と消費の同時性問題を緩和する
3. ロングテールビジネスの可能性
4. 顧客とのつながりの変化
5. スケール “デ” メリットの緩和

事務局
:ぜひ、それぞれについて詳しくおうかがいしたいです。

菊地様
:1の繁閑の波の対処という意味ではいろいろな問題があるのですが、実は、製造業にも需給変動があり、金融業にも金利・為替の変動があるように、繁閑の波に苦しんでいるのはサービス産業だけではありません。そして、今まで様々なテクノロジーを駆使してその波をコントロールしてきたのが、産業の進化の歴史ですね。

今は、ダイナミックプライシングやサブスクモデル、シェアリングなどの、デジタル化の進行によってサプライサイドの視点でサービス産業の波を新たにコントロールできるテクノロジーがどんどん生まれつつあるのではないか、というのが1の「波(繁閑の差)の影響を緩和する」におけるポイントです。

事務局:なるほど。サブスクやデリバリーなどのサービスを取り入れることで、オフピークの売り上げを補完したり、ダイナミックプライシングによって繁閑の波の振幅を平準化したりすることができるというわけですね。
では、2の「サービスの提供と消費の同時性問題」とはどういうことですか。

菊地様:サービス産業は、モノのようにストックができないので、「行きたい時に満員だった」「食べたいものが売り切れだった」など、お客様にも従業員にもストレスがかかってしまう問題があると思います。今までは、それは仕方がないということで片付けられていたのですが、プレオーダーシステムが開発されたり、調理機器にイノベーションが起きることで、この問題は緩和していくのではないかというのが2つ目のポイントです。

事務局:なるほど。
では、3の「ロングテールビジネスの可能性」とはどういうことですか。

菊地様:外食産業は、今まで高い固定費を前提にビジネスを組み立てていたので、マスマーケットでないとビジネスモデルが成り立たちませんでした。それが、二等立地でも成立するデリバリーやテイクアウトで料理を提供するゴーストレストランということになれば、高い固定費から解放されるだけでなく、マスマーケット以外の、例えば宗教食や健康食など、いわゆるロングテールマーケットにもアクセスができるのではないかということですね。

事務局
:マーケットが、より豊かになりそうですね。
続いて、4の「顧客とのつながりの変化」についてもお願いします。

菊地様:今までお店とお客様との接点は、お客様がお店に来ていただかないと生まれなかったのですが、例えばアプリなどを通じて、お店の外でもお客様と結びつくようになれるということが4点目のポイントです。

事務局:確かに、店舗アプリを活用している飲食店が最近増えているような気がします。
最後に、5の「スケール “デ” メリットの緩和」についてもご説明いただけますか。

菊地様
:これは、本当はもう少し丁寧に説明しないといけないのですが、外食産業は、規模と価値が必ずしも比例していないと個人的に思っています。要は、規模が大きくなればなるほど「陳腐化やカニバリ化が進む」「使える食材が限定的になる」などの理由で、どうしても価値が低減してしまいます。
しかしデジタル化を活用することで、よりお客様にカスタマイズした商品を提供できるようになれば、規模に比例して価値も右肩上がりになっていくのではないかということが、5点目のポイントです。

外食産業では、パンデミックが起きる前から「生産性が低い」「人手が確保できない」「単価をあげられない」などの様々な課題がありました。それらをDXが解決していくのではないかとは言われていたものの、導入のハードルが高いために、「それを導入したらいくら儲かるの?」とか「それをやったら何ができるの?」といった反応の方が多かったのですが、私はDXを推進しないリスクの方を前提に考えた方がいいと思っています。

事務局:導入しない方が、むしろリスキーだと。

菊地様:そうですね。やはり、繁閑の波の影響を緩和できないと従業員が疲弊しますし、サービスの提供と消費の同時性の問題を緩和できないと顧客の不満が高まります。また、ロングテールビジネスの可能性を探らなければ機会の喪失にもつながってしまいます。

つまりDXで競合他社におくれをとると、顧客獲得ができなくなるだけでなく、従業員確保も難しくなり、事業継続に関わるリスクにもつながってくると思うのです。

外食産業には「ここだから行きたい」と思わせる絶対的価値(WORTH)が必要

菊地様:例えば新聞に対してネットニュースがあり、銀行に対してネットバンクがあるように、リアルとデジタルの問題は、他産業でも起きていることですが、場所性が重要になる外食産業においては、他の産業とは違い、わざわざ来ていただくという価値をいかに創っていくかが大切になってくると思います。

しかも価値というのは「他より安い・多い・満足度が高い」という相対的な価値(VALUE)ではなく、絶対的な価値(WORTH)をいかに磨き上げていくかが問われていくのだと思っています。

事務局
:「ここだから行きたい」と思ってもらえるような魅力ということですね。

菊地様:今は、第4次産業革命といわれますけれど、これまでの第1次・2次・3次産業革命では、画一的なスピードや、いかに効率的に機械に作業を置き換えるかなど、人と機械の関係が代替的だったのに対し、今起きている第4次産業革命では、例えばセンサーやカメラやロボットなど、人を補完するテクノロジーがたくさん生まれてきています。

今回の講演では、サービス産業が、よりメリットを感じられるテクノロジーの進化があって、それによって我々が本源的に大事にしている価値(WORTH)を、より強化していきましょうというお話を、みなさまにお伝えできたらと思っています。

事務局:ありがとうございます。
今ご説明いただいた一連のことは、新型コロナウィルスによるパンデミックを経て加速化していったことだと思うのですが、もともと外食産業が長年構造的に抱えている問題というものもあり、そこに対するアプローチはコロナ以前もずっとされてきたことだったのでしょうか。

菊地様:ロイヤルホールディングス株式会社は、2017年に「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」という完全キャッシュレスの研究開発店をつくったのですが、それは、やはりテクノロジーを活用し業務改善をしていくという取り組みの一つで、問題意識の背景はコロナ以後の試みと同じだと思います。

ただ、当時は時間をかけて徐々に変わっていくと思っていたものが、コロナによって一気に加速しているので、時間がないがゆえに急激に変わってきているとも言えると思います。緩やかな変化であればなじみながら対処していくことができるのですが、変化が急激だからこそ、そのことが持つ意味をより本源的に考えなければいけないのではないかと思います。

事務局:先ほど5つの課題に対するそれぞれのアプローチをご説明いただきましたが、それらは優先順位をつけて進めていらっしゃるのですか。

菊地様:いえ、先ほどあげた5つの課題は、同時並行的に起きていることなので優先順位をつける必要はないと思います。どのようにテクノロジーを活用することで、この中のどの課題を解消することができるだろうかと考えながら進めていくという意味です。

それからすべての事業が、1対1で符号しているわけではないと思います。例えば、「ロイヤルホスト」と「てんや」では全然性質が違います。やはり外食産業には多様性があるので、その中で自分たちの業態や事業にフィットしたテクノロジーってなんだろうと考えることが必要だと思います。

例えば、「てんや」ではファーストフード的に「どんどんロボットを活用していこうよ」という意見がある一方で、ロイヤルホストでは「人によるおもてなしを大事にしないといけないよね」という意見がある。そうすると、活用するテクノロジーの背景は、全然違ってきますよね。でもその多様性が一つのポイントになるのではないかとは思いますね。

ただ共通していることは、やはり人の価値というものを最大化することがポイントになるということです。

さまざまなステークホルダーをインテグレートすることでより良い社会を創っていく

事務局:今回のご講演では、今日お話いただいたことをより掘り下げてお話しいただくことになると思いますが、特にどういう方々に聴いていただきたいですか。

菊地様:経営者の方であっても、担当者の方であっても、これから外食産業を自分たちで進化させたいと思っている方々に聴いていきたいですね。

また、私はこのような問題提起をすることで、飲食店自体の社会的評価をあげていきたいと思っているので、そういうことに共感をしてくださる方々にも、ぜひ聴いていただきたいです。
また飲食店に限らず、これからは価値創造プロセスにおいて、さまざまなインテグレーションが大事になってくる時代だと思います。要は、飲食店だけではなく、ベンダーやお客様と一緒に価値創造をしていくというイメージです。そういう意味では、飲食店の方に限らず、農業の方や飲食店に関連するさまざまなプレーヤーの方々と、一緒になってより良い社会を創っていければと思っています。

事務局:まさに「スマートレストランEXPO 」には、年々農業の方々のご来場も増えていますし、今回のお話も非常に興味深く聴いていただけると思います。

菊地様:そうですね、食に関わるあらゆる産業の方々と一緒に考える機会を創ることができればと思っています。

事務局:ありがとうございました。講演を楽しみにしております。


スマートレストランEXPO

【会期】
2022年12月7日(水)~9日(金)
【会場】幕張メッセ
【主催】RX Japan株式会社


講演
「DXこそが、フードビジネスを進化させる」
【日時】2022年12月09日(金)|10:00~11:00 
【登壇者】
ロイヤルホールディングス(株)代表取締役会長 菊地 唯夫 様

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